――その日、私は悪夢を見た。
「藤花、早く帰ってきて」
「どこ行っちゃったんだよ」
そう泣いているのは向こうの世界の友人たちだった。高校でいつも一緒にいた皆だ。
部活の仲間たちもいる。
「橘先輩……」
「藤花、皆で全国行くんじゃなかったの?」
(そうだ。私は……)
そんな皆の方に足を向けようとして。
「藤花」
背後から名を呼ばれた。
振り返ると、ラディスがいた。
そして、イリアスや騎士見習いの仲間たちがいた。
私はそこで動けなくなってしまった。
1年前の私だったら、すぐさま向こうの世界の友達の元へ駆け出していただろう。
でも今は――。
「なんで? こんなに心配してるのに」
「帰ってきてくれないの?」
友達が泣いているのに動けない。
この世界で出逢った人たちも、悲しそうな顔で私を見ている。
「藤花、帰ってしまうのか?」
ラディスにそう問われて、何か言わなければと口を開く。
でも、声が出ない。どう答えればいいのかわからない。
(――私は、)
ハっと、そこで目が覚めた。



