不貞腐れたように口を尖らせたイリアスに私は苦笑する。

「ありがとな。でもほんと大丈夫だから」
「でも腹壊したんだろ」
「や、それは、偶然っていうか、あんま関係ない」
「そうなのか? てか、ザフィーリの奴はなんで厩舎になんて行ったんだよ」

 ぎくりとする。

「さ、さぁ?」
「そうそう、アイツ今日午後遅刻してきた上に、その後もなんかずっとぼーっとしててさ、あげく団長に呼び出し食らったんだぜ」
「そうだったのか」

 動揺が顔に出ないように気を付けながら私は相槌を打つ。
 と、イリアスがシチューをスプーンですくいながら言った。

「らしくねーっつーかさ、何なんだろうな」
「それは心配だな」
「べ、別に俺は心配なんてしてねーけどな」

 慌てたようにパクパクとシチューを食べ始めたイリアスを見て少し心が温かくなった。

(ラディスの奴、うまくやってくれたかな……)

 それに昼間聞いたバラノスの聖女の話も気になった。
 何か陰謀が絡んでいると彼は言っていたけれど。

(陰謀……やっぱ戦争絡みなのかな)

 騎士にはなりたいけれど、戦争はやっぱり怖いし嫌だ。
 矛盾しているのはわかっているけれど、どちらも本心で。
 言い知れぬ不安を拭うように、私は目の前の温かい料理を胃に収めていった。