男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される



 ――しかし、それから数日後のことだ。


 その日の鍛錬が終わり、回廊に囲まれた訓練場の端っこで汗を拭きつつ一息ついていたときだ。
 ラディスの奴がこちらにやってくるのが見えた。
 また何か言われるのではと睨みつつ身構えていると、奴はすれ違いざまに低い声で言った。

「今夜、俺の部屋に来い」
「――は?」

 聞き間違えかと思い振り返った時にはもう奴は回廊を歩いていて。

「どうした、トーラ」

 汗だくのイリアスがこちらに歩いてくる。

「いや、あいつが……」
「あいつって、ラディス団長か?」

 私の視線を追ってイリアスは首を傾げた。

「なんか、夜部屋に来いって」
「へぇ……はぁ!?」

 イリアスが一拍遅れてぎょっとした顔をして、私はそんな友人を見上げ眉をひそめた。

「オレ、なんかしたか?」