――なんで。
 なんでラディスがここにいるんだよ!?

 あいつにザフィーリとの件を知られたくなくてここまで来たというのに。
 まさかそこで鉢合わせするなんて、運が悪いとしか言いようがない。

 あの宿はラディスが紹介してくれた店ではあるけれど、私が働いている間あいつは一度も顔を見せなかった。
 それとも私が気付かなかっただけで、実はああしてよく訪れていたのだろうか。

(というか、思わず逃げ出してきちゃったけど、詰んでないかこれ!?)

 今逃げられたとしても、あとで確実に質問攻めにされるだろう。
 なぜ都にいたのか、なぜその姿なのか、女将さんに一体何の用があったのか。
 そうしたら、ザフィーリの件も、私がドジったことも全部話さなければならなくなる。

(最っ悪だ!)

 そして、不運は更に続いた。

「――っ!?」

 私は急ブレーキをかけるように足を止めた。
 なぜか。
 大通りの向こうに、見覚えのある銀髪が見えたからだ。

(ザフィーリ……!?)