しかしこんな泥だらけの格好で行けるはずがない。
 とりあえずは着替えようと足早に自室へと向かっている途中だった。

「トーラ!」

 背後から聞こえた大きな声にギクリとする。

「い、イリアス!?」

 廊下の向こうから手を振りイリアスがやって来る。
 彼が騎士になってから休憩時間が合わなくなったため最近昼飯は別々にとっているのだが。

「ナイスタイミング! 今日はこっちも休憩時間早くてさ、お前これから昼飯だろ? 一緒に食堂行こうぜ」

 嬉しそうに誘ってくれるイリアス。

「あ、え、えっと」
「てか、お前泥だらけじゃねーか。さては馬にやられたな?」
「あはははっ、実はそうなんだ。だ、だからさ、これから着替えないとだし、ちょっと汗もかいたから身体を拭きたいし、オレは後から行くよ」
「いいぜ、そんくらいなら待ってるし」
「や、その……」
「ん? どした?」
「~~っ、じ、実は腹の具合が悪くってさ、あんま食欲なくて。だからちょっと横になってたいんだ」

 ごめんイリアス! と心の中で謝罪しながらお腹をさする。
 途端、イリアスの顔が真剣なものに変わった。

「は? 大丈夫かよ。医務室行くか?」
「あ、や、そこまでじゃないから。ちょっと休んだら午後の鍛錬には出れると思う。だからオレのことは気にせずお前は昼飯食ってこいよ」