「運命の、人?」
聞き間違えかと訊き返すとザフィーリは大きく頷いた。
「そう。昨夜遅く僕は目覚め、何かに導かれるようにして廊下に出たんだ。すると、そこに彼女は現れた」
唖然とする私の前で、彼は歌い上げるように続けた。
「艶のある長い黒髪、全てを見透かしたような聡明で涼やかな瞳。それでいて、その微笑みはまるで太陽のように眩しかった!」
聞いていて猛烈に恥ずかしくなった。
本当にそれは私のことだろうか……?
絶対に何かとんでもない補正がかかっている気がしてならなかった。
そして、すぐに思い当たった。
(そういやこいつ、昨日メガネかけてなかったな)
納得である。
あのとき廊下は暗かったし、やっぱりちゃんと見えていなかったんだろう。
「その微笑みを見た瞬間に思ったんだ。彼女こそ、僕の運命の人だと!」
「へぇ」
だがそこでザフィーリの表情に影がさした。
「……しかし、彼女はすぐに去っていってしまった」
それを聞いて、私はあれ?と思った。
「何か、話したりはしなかったのか?」
恐る恐る訊ねてみる。
昨夜、私は確かにザフィーリに話しかけた。返事はなかったけれど。
すると彼は溜息をつきながら首を横に振った。



