といっても、誰か別の人物に成りすますことは出来なかった。
 あくまで元の自分の姿がベースとなる。
 だからトーラの姿は、一人っ子の私にもし歳の近い兄か弟がいたらこんな感じだろうなぁという、ごく平凡な男子の風体だ。

(折角なら、もっとイケメンになりたかったけど)

 そう、この聖女の力も万能というわけではなかった。

 まずどんなに強く願っても、何度念じても向こうの世界には帰れなかった。
 それと一度にふたつの奇跡は起こせないようだ。
 例えば男の姿でいるとき治癒の力は使えない。
 怪我をして治したいと思ったら一度元の姿に戻らなくてはならなかった。

 それと所謂「攻撃魔法」は使えない。
 そこはやはり『聖女』。攻撃よりも守備の方に特化した力なのだろうと私は納得した。

(ちょっと使ってみたかったけどな)

 そんな制限の多い聖女の力だが、一番感動したのはこの身一つで空を飛べることだ。
 これは本当に最高だった。まるでピーター・パンになった気分で自由に空を飛び回れるのだ。