「――っ!」

 胸ぐらを掴み上げられ、身長差があるためにつま先立ちになる。
 このまま殴られるのか。面倒くさいなぁ。ま、あとで聖女の力で治せばいっか。そう考えていると。

「やめたまえ!」

 そんな鋭い声が飛んできて厩舎の入り口を見る。

(げっ!?)

 そこにいたのは、ザフィーリだった。

 男は舌打ちをして私から手を離し、先ほどまで笑っていた仲間も慌てたように掃除の手を再開した。
 私が軽く咳き込んでいると、ザフィーリはメガネをくいと中指で持ち上げながら厩舎の中に入ってきた。

「騎士を目指す者が私闘とは実に情けない。何か不満があるのなら僕から団長に報告するが、原因はなんだい?」

 レンズの向こうの目が厳しく光っていた。

「い、いや、別に報告するほどじゃ……」

 男はそう言うとバツが悪そうに私から離れて行った。
 
「そうか。なら、トーラ」

 名を呼ばれギクリとする。

「話がある。ついて来てくれるかい」
「……わかった」

 そうして、私は奴らの視線を感じながらザフィーリと共に厩舎を出た。