サーっと血の気が引いていくのを感じた。
 勢いよく窓の方を見る。
 そこには案の定、トーラではなく『橘藤花』が映っていた。

(やらかした……!)

 そうだ、空中散歩を終えるといつもならすぐにトーラの姿に変身するのに、今日はすっかりそのことを忘れてしまっていた。

 先ほどのザフィーリの驚いた顔を思い出す。
 知らない女が真夜中に寄宿舎の廊下を歩いていたら、そりゃびっくりもするだろう。

(ど、どうしよう……)

 よりにもよって、あのザフィーリに見られてしまうなんて。
 しかも、この部屋に入るところもばっちり見られたはずだ。

 足を投げ出し気持ちよさそうに爆睡しているイリアスを見つめながら、私はしばらくの間呆然と立ち尽くした。