「嬉しい」

 本当に嬉しそうな顔がすぐ近くにあって、余りの近さに頭が爆発するかと思った。
 そしてそのとき、唇に冷たい感触を覚えた。

 ――え?

 触れ合うほど近くに彼の長いまつ毛が見えた。
 小さな音を立てて離れたそれがラディスの唇だとわかって。

(!!!?)

 キスだ。
 私は今、ラディスからキスをされたのだ。

 勿論私にとってはファーストキスで、なのに突然すぎて何もわからなかった。
 でも、そんな私を見つめるラディスの目は酷く優しくて。

「藤花」

 愛おし気に名を呼ばれて、それだけで金縛りにあったようにその深いグリーンから目を逸らせなくなった。
 そんな私に、ラディスはもう一度、二度と続けて啄むようなキスを落とした。
 そのたびに身体がびくびくと反応してしまう。
 ラディスがふっと笑うのがわかった。

「そんなに緊張するな」
「だって……んっ」

 まただ。
 今度は少し長めのそれに、私は耐えられずぎゅうと目を瞑った。
 どうすればいいのか、こういうときの正解がわからなかった。
 ようやく彼の唇が離れていって、ほっとする。

「今日はこのくらいにしておこう」
「え……」
「その様子では、また熱をぶり返しかねんからな」
「~~っ!」

 色々限界で咄嗟に何も返せず、せめてもと私はラディスの胸をバシっと叩いていた。