「キアノス副長には、彼女が偽物かもって伝えてあるのか?」
「……いや、だが聖女と言えどあまり甘やかすなとは言ってある」
「そっか……」
私の存在を話せないのだから仕方ないが、もどかしい。
ラディスが先ほど私の力を見せられたらと言っていた気持ちがわかる気がした。
「お前は、キアノスが好きなのか?」
「え?」
急にそんな低い声が聞こえて視線を上げると、頗る不機嫌そうな顔があった。
「今言っただろう、キアノスはそこがいいと」
思わずぽかんとその顔を見てしまった。
「言った、けど……」
その眉根が更に寄るのを見て、漸く私は慌てる。
(なんか、妙な誤解をされてる!?)
「いや、好きとかそういう意味じゃなくて! 普通にキアノス副長は優しいとこがいいよなって意味で」
「同じ意味に聞こえるが?」
「や、だから、キアノス副長はいい上司だって意味で」
「俺はいい上司ではないか?」
「そんなこと言ってないだろ!?」
確かに以前はムカつく上司だと思っていたけれど、でも今は――。
「私が好きなのはラディスだけだって!」
勢い付いて言ってしまってから、自分の恥ずかしい台詞に気付いてかぁっと顔が熱くなる。
「うわっ!?」
途端、横抱きのままぎゅうと強く抱きしめられた。



