〇晴れた日の昼休み。小花のとっておきの芝生のスペース。緑が青々と風に揺れている。
小花はいつものように本を開く。
隣では柊音がギターを弾きながら曲を作っている。
そのメロディに耳を澄ましていると、他のメンバーもやって来る。
小花モノ『私だけのお気に入りの場所は、いつの間にかみんなのお気に入りの場所になった』
小花モノ『人と一緒にいることが、こんなに楽しいなんて知らなかった』
小花は顔を上げると、思い思いに過ごすみんなの様子を見る。
くすくすと笑いだす小花。
柊音「急にどうしたの?」
小花「いいえ、なんだか不思議だなって思って」
隆二「みんなでここに居ることが?」
小花「はい。私はいつも、ぼっちだったので」
柊音「今は俺たちがいるよ」
小花の隣に座っていた柊音が、ポンと小花の頭に手を置く。
頬を赤くする小花。チラッと見る隆二。
しばらくして雑誌を読んでいた涼が、慌てて顔を上げる。
涼「柊音! そういえば今日ってゼミじゃなかったっけ?」
柊音「やべ! そうだった。じゃあまた後で」
柊音・涼・太一は同じ理学部。
柊音は小花に手を上げると、走って芝生を出て行く。
残された小花と隆二は顔を見合わせるとぷっと吹き出して笑った。
隆二「小花ちゃんは西洋文学が好きなの?」
小花「そういう訳でもないんですけど、この本が好きで……」
小花「そういえば隆二さんも文学部ですよね」
隆二はにっこりとうなずくと、小花の本を覗き込む。
隆二「神曲かぁ。俺も読んだことあるなぁ」
小花「え! 本当ですか!?」
目を輝かせる小花。
チャイムが鳴り、二人も慌てて立ち上がる。
〇講義のある校舎へと向かう途中の歩道。いくつかある建物には、学生が出入りする様子が見える。
小花は隆二と一緒に芝生を出て歩き出す。
本の話をしながら歩く二人を、そっと影から見る女子学生たち。
隆二「じゃあ小花ちゃん、午後も頑張ってね」
小花「はい! 隆二さんも」
ぺこりと頭を下げて隆二と別れる小花。
小花が授業に向かおうと歩き出した時、誰かに呼び止められる。
振り返る小花。立っていたのは以前、柊音を追いかけていた女子学生たちだった。
腕を組んで立つ女子学生たちに、小花は戸惑ったようにうつむく。
小花を取り囲む女子学生。
女子学生1「最近、シュウの周りで色目使ってる子がいるって聞いたけど。あんただよね?」
女子学生2「リュウさんにも手、出すとかサイアク」
女子学生3「あんたみたいなのがウロチョロしたら、シュウの評判が落ちるじゃない!」
小花「そ、そんな……私はただ……」
女子学生1「ただ、何? 清純ぶっちゃってムカツク!」
女子学生の手が当たり、小花の手から本が滑り落ちる。
地面に落ちた本を慌てて取り上げようとする小花。
女子学生1「ちょっと聞いてんの?」
女子学生が小花の肩をグッと掴んだ時、落ちた本を踏みつける。
はっとする小花。
小花「やめて!」
小花は叫び声を上げると、女子学生の足元から本を取り上げる。
小花の声にビクッとする女子学生たち。
しゃがみ込んで本を抱きかかえる小花。
本の表紙にはヒールの後がついている。
女子学生1「た、タイミング悪く踏んじゃっただけじゃない。ごめんってば」
小花の目には涙がいっぱい溜まっている。
本を抱きかかえていた小花は、バッと立ち上がると、うつむいたまま走り出した。
小花(こんな私が少しでも“楽しい”なんて思ったから、罰が当たったんだ……)
小花(私が柊音さんの側にいたら迷惑がかかる。私は、ぼっちでいた方がいいんだ……)
本を抱えて泣きながら走る小花。
〇校舎と校舎の間。渡り廊下。ゼミ生が数名研究室に移動している。
柊音がふと横を向くと、小花がうつむいて走って行くのが見える。
小花のいつもと違う様子に、首を傾げる柊音。
柊音「悪い、先に行ってて」
柊音は涼と太一にそう告げると、慌てて小花を追って駆けだす。
〇大学の門を出た歩道。通行人が数名歩いている。
柊音は小花の後姿を見つける。
柊音「小花!」
柊音の声にビクッとして足を止める小花。
うつむいたままの小花の肩に、柊音がそっと手をかける。
柊音が覗き込むと、小花は涙でぐちゃぐちゃの顔を隠すように横を向く。
はっとする柊音。
柊音「小花、どうしたんだよ!」
柊音がグッと手に力を入れると、小花はそれを振りほどく。
小花は本を抱きしめると、うつむいたまま声を出す。
小花「私はやっぱり……ぼっちの方がいいんです……」
柊音「小花、何言って……」
小花「迷惑なんです! もう、私の世界に入ってこないで!」
小花は叫ぶと、柊音の手を振り切って走り出す。
柊音は傷ついた顔をしながら、ただその場に立ち尽くしていた。
〇その日の夕方。小花の部屋。アパートの二階。カーテンは閉じ、電気もついていない。
小花はベッドに突っ伏していた顔を、ゆっくりと上げる。
泣きながら眠ってしまっていたのか、カーテンの隙間からは夕焼けが覗いている。
小花はのそのそと身体を起こすと、机の上のスマートフォンをタップする。
画面には、柊音からの電話が数件入っていた。
小花(もう柊音さんには関わらない方がいいんだ)
小花(私なんかが側にいたら、迷惑がかかっちゃうもん……)
小花はスマートフォンの電源を切ると、そのまま再びベッドに倒れ込んだ。
〇次の日の朝。カーテンの隙間から差し込む朝日。
小花は何か物音が聞こえ目を覚ます。
不思議に思っていると、再び窓にコンという何かが当たる音が聞こえた。
小花「何の音?」
カーテンをそっと開けた小花は、ベランダを見てはっとする。
ベランダには何枚かのギターのピックが落ちている。
小花「え? なんでこんなものが?」
慌ててベランダに出る小花。
その途端、人の声が聞こえた気がして下の道路を見た小花は目を丸くする。
そこには一台のワンボックスカーが止まっており、柊音や他の三人が笑顔で手を振っていたのだ。
柊音「小花、おはよう。今からみんなでドライブでもどう?」
小花「昨日も言ったはずです……。私は、もう……」
柊音「何も気にする必要ないんだよ」
小花「柊音さん……?」
柊音「俺が小花と一緒にいたいんだから」
小花は手に持っていたピックをぎゅっと握り締めると、涙で潤んだ瞳を上げた。
〇小花のアパートの玄関。
支度をした小花が扉を開けると、外で柊音が待っていた。
柊音「女の子たちがさ、俺の所に謝りに来たんだ」
小花「え……」
柊音「小花に悪いことしたってわかってたみたい」
小花の脳裏に、昨日の女子学生の顔が浮かぶ。
柊音「だからね、小花は俺にとって大切な人だから、もう傷つけないでって言ったよ」
小花「柊音さん……(大切な人って、どういう意味だろう……?)」
柊音は小花の頭にポンと手を置くと、顔を覗き込ませる。
小花は顔を真っ赤にさせる。
柊音「全然連絡とれないからさぁ、ここまで押しかけちゃった」
柊音はくすりと笑う。
小花は手にいっぱいのピックを差し出した。
小花「元気づけようとしてくれたんですね」
柊音「まぁね。結構ピック飛ばすのコツいるんだよね」
小花「ちゃんとコツンってぶつかってました」
柊音「一応バンドマンだからね」
柊音「って、それは関係ないか」
おどける柊音。
二人は顔を見合わせるとくすくすと笑い合う。
柊音「じゃあ行こうか!」
小花「え?」
柊音「ドライブ行くんでしょ?」
小花「ほ、本気だったんですか!?」
柊音「当たり前じゃない! ほら、みんなが待ってる」
小花が階段から覗くと、隆二たちが窓から手を振っていた。
小花はパッと笑顔になると、柊音と一緒に階段を駆け降りた。
小花はいつものように本を開く。
隣では柊音がギターを弾きながら曲を作っている。
そのメロディに耳を澄ましていると、他のメンバーもやって来る。
小花モノ『私だけのお気に入りの場所は、いつの間にかみんなのお気に入りの場所になった』
小花モノ『人と一緒にいることが、こんなに楽しいなんて知らなかった』
小花は顔を上げると、思い思いに過ごすみんなの様子を見る。
くすくすと笑いだす小花。
柊音「急にどうしたの?」
小花「いいえ、なんだか不思議だなって思って」
隆二「みんなでここに居ることが?」
小花「はい。私はいつも、ぼっちだったので」
柊音「今は俺たちがいるよ」
小花の隣に座っていた柊音が、ポンと小花の頭に手を置く。
頬を赤くする小花。チラッと見る隆二。
しばらくして雑誌を読んでいた涼が、慌てて顔を上げる。
涼「柊音! そういえば今日ってゼミじゃなかったっけ?」
柊音「やべ! そうだった。じゃあまた後で」
柊音・涼・太一は同じ理学部。
柊音は小花に手を上げると、走って芝生を出て行く。
残された小花と隆二は顔を見合わせるとぷっと吹き出して笑った。
隆二「小花ちゃんは西洋文学が好きなの?」
小花「そういう訳でもないんですけど、この本が好きで……」
小花「そういえば隆二さんも文学部ですよね」
隆二はにっこりとうなずくと、小花の本を覗き込む。
隆二「神曲かぁ。俺も読んだことあるなぁ」
小花「え! 本当ですか!?」
目を輝かせる小花。
チャイムが鳴り、二人も慌てて立ち上がる。
〇講義のある校舎へと向かう途中の歩道。いくつかある建物には、学生が出入りする様子が見える。
小花は隆二と一緒に芝生を出て歩き出す。
本の話をしながら歩く二人を、そっと影から見る女子学生たち。
隆二「じゃあ小花ちゃん、午後も頑張ってね」
小花「はい! 隆二さんも」
ぺこりと頭を下げて隆二と別れる小花。
小花が授業に向かおうと歩き出した時、誰かに呼び止められる。
振り返る小花。立っていたのは以前、柊音を追いかけていた女子学生たちだった。
腕を組んで立つ女子学生たちに、小花は戸惑ったようにうつむく。
小花を取り囲む女子学生。
女子学生1「最近、シュウの周りで色目使ってる子がいるって聞いたけど。あんただよね?」
女子学生2「リュウさんにも手、出すとかサイアク」
女子学生3「あんたみたいなのがウロチョロしたら、シュウの評判が落ちるじゃない!」
小花「そ、そんな……私はただ……」
女子学生1「ただ、何? 清純ぶっちゃってムカツク!」
女子学生の手が当たり、小花の手から本が滑り落ちる。
地面に落ちた本を慌てて取り上げようとする小花。
女子学生1「ちょっと聞いてんの?」
女子学生が小花の肩をグッと掴んだ時、落ちた本を踏みつける。
はっとする小花。
小花「やめて!」
小花は叫び声を上げると、女子学生の足元から本を取り上げる。
小花の声にビクッとする女子学生たち。
しゃがみ込んで本を抱きかかえる小花。
本の表紙にはヒールの後がついている。
女子学生1「た、タイミング悪く踏んじゃっただけじゃない。ごめんってば」
小花の目には涙がいっぱい溜まっている。
本を抱きかかえていた小花は、バッと立ち上がると、うつむいたまま走り出した。
小花(こんな私が少しでも“楽しい”なんて思ったから、罰が当たったんだ……)
小花(私が柊音さんの側にいたら迷惑がかかる。私は、ぼっちでいた方がいいんだ……)
本を抱えて泣きながら走る小花。
〇校舎と校舎の間。渡り廊下。ゼミ生が数名研究室に移動している。
柊音がふと横を向くと、小花がうつむいて走って行くのが見える。
小花のいつもと違う様子に、首を傾げる柊音。
柊音「悪い、先に行ってて」
柊音は涼と太一にそう告げると、慌てて小花を追って駆けだす。
〇大学の門を出た歩道。通行人が数名歩いている。
柊音は小花の後姿を見つける。
柊音「小花!」
柊音の声にビクッとして足を止める小花。
うつむいたままの小花の肩に、柊音がそっと手をかける。
柊音が覗き込むと、小花は涙でぐちゃぐちゃの顔を隠すように横を向く。
はっとする柊音。
柊音「小花、どうしたんだよ!」
柊音がグッと手に力を入れると、小花はそれを振りほどく。
小花は本を抱きしめると、うつむいたまま声を出す。
小花「私はやっぱり……ぼっちの方がいいんです……」
柊音「小花、何言って……」
小花「迷惑なんです! もう、私の世界に入ってこないで!」
小花は叫ぶと、柊音の手を振り切って走り出す。
柊音は傷ついた顔をしながら、ただその場に立ち尽くしていた。
〇その日の夕方。小花の部屋。アパートの二階。カーテンは閉じ、電気もついていない。
小花はベッドに突っ伏していた顔を、ゆっくりと上げる。
泣きながら眠ってしまっていたのか、カーテンの隙間からは夕焼けが覗いている。
小花はのそのそと身体を起こすと、机の上のスマートフォンをタップする。
画面には、柊音からの電話が数件入っていた。
小花(もう柊音さんには関わらない方がいいんだ)
小花(私なんかが側にいたら、迷惑がかかっちゃうもん……)
小花はスマートフォンの電源を切ると、そのまま再びベッドに倒れ込んだ。
〇次の日の朝。カーテンの隙間から差し込む朝日。
小花は何か物音が聞こえ目を覚ます。
不思議に思っていると、再び窓にコンという何かが当たる音が聞こえた。
小花「何の音?」
カーテンをそっと開けた小花は、ベランダを見てはっとする。
ベランダには何枚かのギターのピックが落ちている。
小花「え? なんでこんなものが?」
慌ててベランダに出る小花。
その途端、人の声が聞こえた気がして下の道路を見た小花は目を丸くする。
そこには一台のワンボックスカーが止まっており、柊音や他の三人が笑顔で手を振っていたのだ。
柊音「小花、おはよう。今からみんなでドライブでもどう?」
小花「昨日も言ったはずです……。私は、もう……」
柊音「何も気にする必要ないんだよ」
小花「柊音さん……?」
柊音「俺が小花と一緒にいたいんだから」
小花は手に持っていたピックをぎゅっと握り締めると、涙で潤んだ瞳を上げた。
〇小花のアパートの玄関。
支度をした小花が扉を開けると、外で柊音が待っていた。
柊音「女の子たちがさ、俺の所に謝りに来たんだ」
小花「え……」
柊音「小花に悪いことしたってわかってたみたい」
小花の脳裏に、昨日の女子学生の顔が浮かぶ。
柊音「だからね、小花は俺にとって大切な人だから、もう傷つけないでって言ったよ」
小花「柊音さん……(大切な人って、どういう意味だろう……?)」
柊音は小花の頭にポンと手を置くと、顔を覗き込ませる。
小花は顔を真っ赤にさせる。
柊音「全然連絡とれないからさぁ、ここまで押しかけちゃった」
柊音はくすりと笑う。
小花は手にいっぱいのピックを差し出した。
小花「元気づけようとしてくれたんですね」
柊音「まぁね。結構ピック飛ばすのコツいるんだよね」
小花「ちゃんとコツンってぶつかってました」
柊音「一応バンドマンだからね」
柊音「って、それは関係ないか」
おどける柊音。
二人は顔を見合わせるとくすくすと笑い合う。
柊音「じゃあ行こうか!」
小花「え?」
柊音「ドライブ行くんでしょ?」
小花「ほ、本気だったんですか!?」
柊音「当たり前じゃない! ほら、みんなが待ってる」
小花が階段から覗くと、隆二たちが窓から手を振っていた。
小花はパッと笑顔になると、柊音と一緒に階段を駆け降りた。
