〇車内
直人、慣れたように運転する。
杏、助手席に座り緊張した面持ちでチラッと直人を見る。
(回想)
〇永明大学・図書館近くのベンチ
友里、ニコニコしながら言う。
友里「ねぇ、佐田さんとデートしてみたら?」
杏、怪訝な顔。
杏「何で?」
友里、自信たっぷりな感じで言う。
友里「経験豊富だから、大人なデートが楽しめるよ」
友里「もしかしたら……、修ちゃんとデートしてる気分になるかもよ?」
友里、杏の肩にもたれかかる。
友里「何より、佐田さんは杏のことが好きだし」
(回想終了)
杏、黙ったまま俯く。
杏M「佐田さんが私を好き? じゃあいつも触ってくるのは……」
直人、信号機のない横断歩道の手前で停車する。
杏、きょとんとした顔で直人を見る。
直人「何だよ?」
杏「いや……」
杏、横断歩道を渡るお年寄りを見つめる。
杏「意外と優しいなと思って……」
直人、ほんのり頬を赤らめる。
直人「普通だろ? ていうか止まらない方が違反だから!」
杏「そうですね……。でも止まってくれないことが多いから」
直人、真顔で杏を見つめる。
直人「俺、めっちゃ優しいよ。好きになったら一途だし」
杏、滅多に見ない直人の真剣な表情にドキッとする。
杏M「今のドキッて……」
杏、目が泳ぎ始め、緊張を誤魔化すように窓の外を見る。
杏「ホント意外ですね。一途だったなんて知らなかったな」
直人、そっと杏の髪に触れる。
杏、緊張と不安が入り混じるような顔で直人を見る。
杏M「佐田さん……?」
直人「お前はこれから……」
杏、直人に釘付けになる。
直人、杏の耳に髪をかけて耳元で囁く。
直人「絶対、俺を好きになる」
直人、真剣な表情で杏を見つめる。
杏「……!」
杏、真っ赤な顔が見られないよう窓の外を見る。
杏「どうですかね……」
直人、急におちゃらけたように言う。
直人「好きになるよ。なぜなら俺がプレゼンの天才だから」
杏、鼻で笑う。
直人「おい、鼻で笑ってんじゃねぇよ!」
杏「だって、佐田さんが変なこと言うから」
直人「大真面目だ!」
直人、杏にデコピンする。
杏、額に手を当てながら直人に訴える。
杏「痛ッ! 全然優しくないです!」
直人「俺は彼女にしか優しくしねぇんだよ。バーカ」
杏「……!」
杏、しかめっ面で直人を睨む。
杏M「あぁ、いつもの佐田さんだ」
杏、緊張がほぐれて笑顔になる。
直人、杏の様子を見てホッとしたような表情を見せる。
直人、歩行者が横断歩道を渡り終わり、車を発進させる。
杏、チラッと窓の外を見ると、数メートル先に誠が居る。
杏「あっ、誠!」
直人、杏と同じ方向をチラッと見る。
直人「え? マジだ」
杏M「えっ? 知ってるの?」
杏、不安そうに問う。
杏「誠のこと知ってるんですか?」
直人、運転しながら答える。
直人「だって誠は俺の……」
(回想)
〇永明大学・外ベンチ
修「3つ下で、誠と同級生なんだ」
(回想終了)
〇車内
直人、ぼんやり運転する。
直人M「修の本命は3歳年下で誠の同級生」
杏、黙り込む直人を見つめる。
直人M「あの双子といい、共通点が多すぎる」
杏M「もしかして佐田さんは修ちゃんの……」
直人、緊張した面持ちになる。
直人「なぁ……」
杏、緊張で手が震える。
杏「はい?」
直人「お前の誕生日って、いつ?」
杏「……6月15日です」
直人、交差点の直前で信号が赤になり、急ブレーキを踏む。
杏、急ブレーキにより上体が前に倒れる。
杏「きゃっ!」
直人、青ざめた顔で一点を見つめたまま動けなくなる。
杏、直人の様子を見て焦る。
杏M「このまま運転続けるのは危ない。どこかで休憩を……」
杏、窓の外を見渡し、ハッとした顔をする。
〇カフェ・テーブル席
杏、気まずそうな顔で直人をチラッと見る。
杏M「佐田さんと修ちゃんは知り合いなんだ」
杏、しばらく黙ったまま直人の様子を伺う。
直人M「修の本命は間違いなくコイツだ……」
直人M「これからどう接したら……。リングも渡すべきだよな?」
直人、困惑したように杏を見る。
杏、首を傾げながら直人を見る。
直人、切なそうな顔をして俯く。
直人M「渡したら俺は……、見向きもされないかもしれない」
杏「佐田さん?」
直人、唇を噛みしめる。
(回想)
〇永明大学・人気の少ない芝生広場(夕方)
直人「何だよ話って?」
直人、眉間にシワを寄せて友里に問う。
友里「先輩は杏が好きですよね?」
直人、頬を赤らめる。
直人「だったら何?」
友里「私は杏の幼馴染の暁斗くんが好きです」
直人「ふぅーん」
友里、怖い顔で言う。
友里「酔った勢いで杏が暁斗くんと寝たみたいです」
直人、言葉を失う。
友里「でも杏は記憶がなくて、暁斗くんに軽蔑されてます」
友里、ニヤッとしながら直人に近づく。
友里「これ、二人を引き裂く絶好のチャンスですよね?」
直人、友里を見つめる。
(回想終了)
直人M「今しかない。チャンスは今しか……」
杏「佐田さん、答えてください」
杏「修ちゃん……、修くんとは友達だったんですか?」
直人、コーヒーを飲んで深呼吸をする。
直人「俺の親友だ」
杏、目に涙を浮かべる。
杏「私は、物心ついた頃から彼のことが好きでした」
杏「だから17歳の誕生日に告白するつもりだったのに……」
杏、涙を流す。
杏「今も彼を忘れられません……」
杏、直人に頭を下げる。
杏「何でもいいから、修ちゃんのことを教えてください」
直人、目の前で泣く杏を見て切ない顔をする。
直人M「本当のことを言わないと」
直人、目を瞑り苦しそうな顔をする。
直人M「でも……」
杏、直人を見つめる。
杏M「佐田さんにとっても、修ちゃんの死は辛いんだ……」
直人、ゆっくり目を開けて決心したように話し始める。
直人「『ある子の17歳の誕生日に会って伝えたいことがある』って言ってた」
杏、期待するような顔をする。
直人「『他に好きな子が居るから付き合えない』って言う予定だった」
直人N「俺は、嘘をつき続ける覚悟をした」
直人、真剣な顔で杏を見つめる。
杏、放心状態になる。
直人N「どうしても、お前と一緒に居たいから」
〇杏のアパート前の道路・車内(夜)
杏、無言のまま助手席で俯く。
直人、ハザードランプをつけて停車する。
直人M「気まずい」
杏、シートベルトを外して車を降りようとする。
直人、活気をなくした杏見つめる。
杏「ありがとう……ございました……」
杏、頭を下げてドアノブに手をかける。
直人「……」
直人N「どうでもいい女なら、いくらでも言葉が溢れ出すのに」
直人N「……どうしてこんなにも言葉が出てこないんだ」
直人、杏に向かって手を伸ばす。
直人、杏の頭を引き寄せて顔を近づける。
杏、目を見開く。
杏「……!」
直人、目を瞑って杏に優しくキスする。
杏、直人に釘付けになる。
直人、ゆっくり杏から顔を話して真剣な眼差しを向ける。
直人「好きだ」
〇杏のアパート前の道路(夜)
暁斗、歩道で立ち尽くす。
暁斗、車内でキスをする二人を目撃して言葉を失う。


