(暁斗の夢の中)
〇杏の家・杏の部屋の前
T「3年前」
暁斗、部屋の前に置かれた手つかずの食事を見つめる。
暁斗N「修くんが死んで、杏は生きる気力を失った」
誠「もう3日も食べてないらしい。あの杏がだぞ?」
誠、眉間にシワを寄せて暁斗と悠斗を見る。
暁斗、無表情で部屋のドアを見つめる。
暁斗M「好きな人が死んだんだ。普通の反応だろう」
悠斗、顎に手を当て目を瞑る。
悠斗「死ぬ気じゃない?」
暁斗M「さすがにそこまでは……」
(回想)
〇公園・ブランコ
T「1年前」
杏、ブランコに腰かけたまま俯く。
暁斗、隣のブランコに腰かけて黙ったままそばに居る。
杏、悲しみを誤魔化すように苦笑いする。
杏「修ちゃん、年上がタイプなんだって……」
杏、涙を流す。
杏「もっと早く生まれたかった……」
暁斗、杏に手を伸ばす。
暁斗M「『諦める』って言えよ。そしたら俺が……」
杏、顔を上げて決心したような顔を見せる。
暁斗、咄嗟に手を引っ込める。
杏「私、もっと綺麗になる!」
杏、暁斗に笑いかける。
(回想終了)
暁斗「……修くんの為なら何でもする奴だ」
誠、恐怖を抱いた顔になる。
誠、勢いよくドアをノックする。
誠「杏! 死ぬなー!」
誠、ドアに耳を当てて中の様子を伺う。
誠「……何も聞こえねぇ」
誠、血の気が引く。
暁斗M「まさか本当に……」
暁斗、鼓動が速くなり、こめかみから汗が流れる。
悠斗、冷静に言う。
悠斗「合鍵あるんじゃない?」
誠「そんなの必要ねぇ! 強行突破だ!」
悠斗、目を見開く。
誠、一蹴りでドアを破壊する。
暁斗、唖然とする。
暁斗M「マジか」
〇同・杏の部屋
杏、ギョッとして廊下の幼馴染たちを見る。
杏「え……」
暁斗、口をポカンと開ける杏の姿を見て微笑む。
暁斗M「良かった……」
悠斗、大笑いする。
悠斗「蹴りでドア破壊する奴、マジで居んのかよ!」
暁斗、部屋の中に入ってやせ細った杏を見つめる。
暁斗N「彼女は憔悴しきっていた」
誠、得意げに言う。
誠「杏の母ちゃんには許可もらってるから大丈夫!」
杏、言葉を失う。
悠斗「だからってマジで壊すなよ!」
誠、悠斗と共に大笑いする。
杏、楽しそうに笑う誠と悠斗を見つめる。
杏M「何で笑えるの?」
暁斗、杏の前に跪いて杏の頬に手を伸ばす。
暁斗M「生きてれば幸せなことがある」
暁斗「杏……」
暁斗M「だから、前みたいに笑ってくれよ」
杏、か細い声でう訴える
杏「何で?」
杏、軽蔑したような目で三人を見る。
悠斗「……杏?」
杏「何で笑えるの?」
誠と悠斗、表情が一気に暗くなる。
杏、声を荒げる。
杏「薄情者だよ! 修ちゃんが可哀想……」
杏、俯いて涙を流す。
暁斗、切ない顔で杏を見つめる。
暁斗M「そうだ、俺は薄情だ……」
暁斗M「修くんが死んで悲しいはずなのに、ホッとする自分もいる」
暁斗M「俺が今こんなにも辛いのは」
暁斗、怒った顔で杏の頬をつねる。
暁斗M「お前がずっと修くんを想って泣くから」
誠「暁斗……」
誠と悠斗、驚いた顔で暁斗を見つめる。
暁斗M「お前がいつまでも不毛な恋を続けるからだ」
杏「いはい……」
杏、睨みながら暁斗の手を払いのける。
暁斗「辛いのは自分だけだと思ってんのか?」
暁斗、立ち上がって杏を見下すように言う。
暁斗「おめでたい脳だな。だからお前はバカなんだよ」
杏、眉間にシワを寄せて怒鳴る。
杏「誰も好きになったことない暁に、私の気持ちなんか分かるわけない!」
杏、暁斗を睨みつける。
暁斗、黙ったまま杏の顔を見つめる。
暁斗M「不毛な恋は俺の方だ……」
(夢終了)
〇杏のアパート・寝室(朝)
杏、驚いたように暁斗を見つめる。
杏「何で?」
暁斗M「こんなこと想像もしてなかっただろ?」
暁斗、目を覚ますと同時に杏に問う。
暁斗「身体、大丈夫?」
杏、動揺を隠しきれない。
杏「かっ、身体? 大丈夫……」
暁斗、微笑んで杏の首に優しく触れる。
暁斗N「お前はずっと修くんだけを見てきたもんな」
暁斗N「でももう修くんは居ないんだ」
暁斗、嬉しそうに言う。
暁斗「激しくシたから心配で……」
杏、顔を真っ赤にして口をポカンと開ける。
暁斗N「お前が諦めるのを待つのは疲れた」
暁斗N「だから俺が、お前の初恋に終止符を打ってやる」
暁斗、珍しくデレデレしながら杏を追い詰めるように言う。
暁斗「俺を選んでくれて嬉しい」
杏「暁、ごめん……。昨日のこと全然覚えてなくて……」
暁斗、切ない顔を見せて急に冷たい口調になる。
暁斗「やっぱり、酔ってたからなんだな……」
暁斗、起き上がって着替え始める。
杏「暁……」
暁斗M「声を聞いただけでお前がどんな顔してるか分かる」
暁斗M「今お前が感じている気持ちは……、不安だ」
暁斗M「幼馴染に嫌われたかもしれないという不安」
暁斗、振り向くと不安そうな杏が目に入る。
暁斗M「ご名答。そしてこういう場合は……」
暁斗、杏を突き放すように言う。
暁斗「近づくな。尻軽女なんか気持ち悪い」
〇同・杏の部屋の前
暁斗、部屋を出て玄関ドアに寄りかかる。
暁斗、真顔で一点を見つめる。
暁斗N「これは賭けだ。杏を失うかもしれない……」
暁斗N「でも試さずにはいられなかったんだ」
暁斗、歩き始める。
暁斗N「杏を振り向かせるにはこれしかない」
〇永明大学・教室
杏、椅子に腰かけてボーッとする。
杏M「私、本当に暁とシたの?」
友里、杏の隣の席に腰かけてボーッとする。
友里M「カッコよかったなぁ」
友里、暁斗の顔を思い浮かべる。
杏、ホワイトボードを見つめながら頬杖をつく。
杏M「首にキスマーク……。やっぱりシたんだよな」
杏M「暁を傷つけた。どうしたら許してくれる?」
友里、頬杖をついて俯く。
友里M「別に好きなわけじゃない。ただカッコいいと思っただけ」
友里M「それに暁斗くんが好きなのは杏で……」
友里、何気なく杏を見て首のキスマークに気がつく。
友里M「え……?」
友里、杏を見つめる。
〇同・図書館近くのベンチ
二人でベンチに腰かけて青空を見上げる。
友里「シたんだ……。暁斗くんと」
友里、暗い顔。
杏「全然覚えてないんだけど……」
杏、困惑したように言う。
友里「それって暁斗くんに失礼だね」
杏、頭を抱える。
杏「だよね。謝っても許してもらえそうにないし……」
杏、涙目で友里に問う。
杏「私、どうしたら良いのかな?」
友里、一瞬ニヤッとし、真剣な顔で杏を見る。
友里「簡単だよ。気がないなら近づかなければいい」
杏、切なそうな顔で友里を見る。
友里M「初恋引きずってるくせに酔った勢いで暁斗くんとヤるなんて……」
友里「だって、尻軽女は嫌いってハッキリ言われたんでしょ?」
杏「うん……」
友里「じゃあ、これ以上関係が悪化しないように距離を置くこと」
杏、落ち込む。
友里「少し時間をおけば、きっとまた幼馴染の関係に戻れるよ」
杏、納得していないような顔。
杏「そうかな……。どんどん距離ができる気が……」
友里、青空を見上げる。
友里「杏はさ、モテるんだから他の男とデートでもしてみたら?」
杏「そんな気持ちにはなれないよ……」
友里、杏の手を握りしめて真剣に言う。
友里「女はね、追いかけるより追いかられた方が幸せになるの!」
友里、笑顔で杏に言う。
友里「私に任せて!」


