2度目の恋は静かに、熱く



(回想)
〇永明大学・外ベンチ
T「3年前」
直人、隣に腰かけてお茶を飲む修に問う。
直人「お前の本命って、誰?」
修、むせ込む。
修「何だよ急に……?」
直人「いや……、どんな美人に告られても断るからさ」
修、顔を赤らめる。
直人、修の顔を覗き込んで問う。
直人「本命、居るんだろ?」
修、俯く。
直人「まさか……、ゲイなのか?」
修、真っ赤な顔で即答する。
修「本命が居るに決まってるだろ」
直人、ニヤニヤしながら問い詰める。
直人「へぇ。で、どんな子?」
修「絶対言わない」
直人「はぁ? 何でだよ?」
修、警戒するように言う。
修「直人に奪われるかも……」
直人、修に肘打ちする。
直人「バカ! 親友の本命、奪うわけねぇだろ!」
修、苦笑いしながら肘打ちされたところをさする。
修「……3つ下の子で、誠と同級生なんだ」
直人、顔を歪める。
直人「お前……、ロリコンだったのか?」
修「……否定はできない。最初は本当に妹みたいに思ってたから」
修、切なそうな顔をする。
修「気がついたら目で追ってて、いつの間にか好きになってた」
修、ため息をつく。
修「でも、彼女の幼馴染に出来のいい双子が居て」
修「顔も頭もよくて、金もある。そいつらと比べたら俺なんか……」
直人「お前もイケメンだろが! 頭だって良いし! 双子なんかに負けんな」
修、微笑む。
修「うん。彼女の17歳の誕生日に告白するつもり。そして……」
修、ポケットから小さな赤い箱を取り出す。
直人「何だそれ……?」
修「OKもらえたら渡そうと思うんだ」
修、箱を開けて直人に中身を見せる。
直人「ペアリング……」
直人、修の照れ笑いが脳裏に焼き付く。
(回想終了)
〇永明大学・食堂
悠斗、ニコニコしながら直人の近くで立ち止まる。
友里、興奮するように悠斗と直人、暁斗の3人を見る。
友里M「キタァァァー!」
直人、暁斗に手首を掴まれながら悠斗の顔を見る。
直人M「3つ年下、出来の良い双子……。これはただの偶然?」
悠斗「佐田先輩、杏に手出さないでもらえます?」
悠斗、口角は上がっているが目が笑っていない。
友里M「先輩がんばれ! 双子に負けんな!」
友里、修羅場のような状況を楽しむ。
直人、鼻で笑う。
直人「おいおい、双子揃って彼氏気取りかよ」
杏、ギュッと握りこぶしを作る。
杏M「違う。彼らはただ……」
悠斗、直人の耳元で囁くように忠告する。
悠斗「いいえ、僕らはただ……」
直人、暁斗と悠斗を見上げる。
悠斗、笑顔を見せる。
暁斗、真顔で直人を見下ろす。
杏M「私が傷つかないようにしてくれているだけ」
杏M「ただの幼馴染として」

〇佐田のアパート・寝室(夜)
直人、机の引き出しから小さな赤い箱を取り出す。
(回想)
〇永明大学・外ベンチ
修、直人に小さな赤い箱を差し出す。
直人、首を傾げる。
直人「俺がもらっても嬉しくねぇんだけど」
修「違うよ。預かっててほしい……」
直人「はぁ? 何で俺が?」
修「誠にバレそうだから。サプライズにしたいんだ。頼む……」
(回想終了)
直人「ちゃんと取りに来いよ……」
直人、涙を浮かべる。
直人N「修は死んだ。好きな女に告白する日に」
(回想)
〇永明大学・食堂
悠斗、直人の耳元で囁くように忠告する。
悠斗「いいえ、僕らはただ害虫駆除しているだけです」
(回想終了)
直人M「害虫駆除って何だよ」
直人M「顔も頭も良くて金持ちな双子……」
直人、小さな赤い箱を見つめて呟く。
直人「あんな奴らと戦ってきたんだな」
直人「お前、すげぇよ……」

〇杏のアパート・リビング(夜)
杏、不満そうな顔で俯き、ソファの前で正座する。
杏M「何で私が……」
杏、ゆっくり顔を上げる。
暁斗、ソファに腰かけて脚を組み、杏を見下ろす。
杏「暁、そろそろ帰った方が……」
暁斗「あんなに修くんのことが好きだって言っておきながら」
暁斗「佐田って奴には、ずいぶん簡単に触らせるんだな」
杏「いや、だから……、佐田さんはみんなに馴れ馴れしいんだって」
杏、無表情の暁斗を見つめる。
杏M「そんなにネチネチ説教しなくても……」
暁斗、顎に手を当てる。
杏N「暁は、私が男の人と関わることを一番嫌う」
杏M「脚が……」
杏、険しい顔をして脚をさする。
暁斗、突然杏の手首を掴んで自分の方へと引き寄せる。
杏、暁斗に軽々と引き寄せられ、暁斗の太ももに跨る。
杏M「え……」
杏、赤面して暁斗を見つめる。
暁斗、真顔で杏を見つめる。
暁斗「脚、痺れたんだろ?」
杏「そうだけど……」
暁斗、杏を抱きしめる。
杏「ちょっ……! 何?」
杏、両手で暁斗の胸を押し返す。
暁斗「アイツには触らせるのに、何で俺はダメなの?」
杏、困惑した表情。
杏「佐田さんはただの挨拶みたいな……」
暁斗、杏に顔を近づける。
杏、咄嗟に目を瞑る。
暁斗、杏の耳元で言う。
暁斗「じゃあ、これはただの挨拶だ」
暁斗、目を潤めて杏を見つめる。
杏、ゆっくり目を開けて暁斗の顔を見る。
杏M「今日は見たことない顔ばかりする」

〇同・寝室(夜)
T「数時間後」
杏、ベッドに倒れ込んですぐに寝息を立てる。
暁斗、ため息をつく。
暁斗M「弱いくせに酒なんか飲むから……」
暁斗、杏の寝顔を見つめたまま呟く。
暁斗「おやすみ」
暁斗、杏に背を向けて数歩前進する。
暁斗「……!」
暁斗、何かに気がついて振り向く。
杏、すすり泣く。
暁斗、ゆっくり杏に近づいて顔を覗き込む。
暁斗「杏?」
杏「修ちゃん……」
杏、涙を流しながら寝言を言う。
暁斗、辛そうな顔をする。
暁斗「もういい加減、諦めろよ……」
暁斗、大粒の涙が零れ落ちる。
暁斗、杏の涙を優しく手で拭う。
暁斗M「どうしたらお前は」
暁斗、眠る杏の唇を奪う。
暁斗、至近距離の杏を涙目で見つめる。
暁斗M「俺を好きになるんだ?」
暁斗、杏の首を甘噛みする。
暁斗、杏の肩を抱く直人の顔がフラッシュバックする。
暁斗M「ゴミ虫が……」

〇同・寝室(朝)
杏、陽の光と小鳥のさえずりで目が覚める。
杏「朝……」
杏M「あぁ、そっか。気まずい雰囲気から逃れるようにお酒飲んだんだ」
杏M「もう少し……」
杏、寝返りをうって一気に覚醒する。
杏「……!」
杏、隣で眠る裸の暁斗に驚く。
杏、勢いよく起き上がって暁斗を見つめる。
杏「何で?」
杏M「何も思い出せない……」
暁斗、目を覚ますと同時に杏に問う。
暁斗「身体、大丈夫?」
杏、動揺を隠しきれない。
杏「かっ、身体? 大丈夫……」
暁斗、微笑んで杏の首に優しく触れる。
暁斗「激しくシたから……」
杏、顔を真っ赤にして口をポカンと開ける。
杏M「それって……」
暁斗、珍しくデレデレしながら杏を追い詰めるように言う。
暁斗「俺を選んでくれて嬉しかった」
杏「暁、ごめん……。昨日のこと全然覚えてなくて……」
暁斗、切ない顔を見せて急に冷たい口調になる。
暁斗「やっぱり、酔ってたからなんだな……」
暁斗、起き上がって着替え始める。
杏M「どうしよう、怒らせちゃった……」
杏、不安そうに暁斗の背中を見つめる。
杏「暁……」
杏、暁斗に手を伸ばそうとする。
暁斗、振り向いて杏を突き放すように言う。
暁斗「近づくな。尻軽女なんか気持ち悪い」
暁斗、アパートを出ていく。
杏、涙をこぼす。
杏M「私、最低だ」