2度目の恋は静かに、熱く




〇自宅・杏の部屋(朝)
佐久間杏(17)、姿鏡を見ながら微笑む。
杏N「今日は私、佐久間杏の17歳の誕生日」
杏、納得いかないような顔をして着替え始める。
杏M「もっと可愛く……」
杏、服を脱ぎ捨てる。
部屋中に服が散乱している。
杏、再び鏡を見て決心したような顔をする。
杏N「今日、人生初の告白をします!」

〇同・階段(朝)
杏、可愛いワンピースを着て階段を下る。
杏M「大丈夫! できる!」
杏N「初恋の人は、大人で、優しくて、努力家で」
杏、前髪を気にする。
杏M「変じゃない……よね?」
杏N「面倒見のいいお兄ちゃんだった」
吉川誠(17)、トイレから出ると同時に杏の姿を見て固まる。
T「吉川誠 17歳 杏の幼馴染」
杏、誠に気がついて不安な顔をする。
杏「ねぇ、変じゃないかな?」
杏N「気がついたら目で追ってて」
誠「いや……」
誠、言葉に詰まり目が泳ぐ。
杏N「これが恋なんだとすぐ分かった」
杏M「やっぱ似合ってないのかな?」
杏、不安そうな顔で誠の横を通り過ぎる。
誠、切ない顔で杏の背中を見つめる。
誠M「結ばれる運命なんだな……」
杏、ドアノブに手をかける。
杏M「自分で決めたんだ! もう後悔しない!」

〇同・リビング(朝)
杏、リビングに入ると同時にソファに腰かける二人の男子が目に入る。
杏M「いつもの光景だ」
杏N「好きな人の夢は、建築士になること」
杏N「そして、笑い声の絶えない家を造ること」
篠崎暁斗(16)、ソファに腰かけて読書をする。
T「篠崎暁斗 16歳 双子の兄」
篠崎悠斗(16)、暁斗の隣に腰かけてスマホ片手にテレビを観る。
T「篠崎悠斗 16歳 双子の弟」
杏、声をかけることもなくソファの後ろを通ってキッチンへと向かう。
杏N「そして、私の夢は」
悠斗、杏に気がついて声をかける。
悠斗「今日はオシャレだね。どこ行くの?」
暁斗、無言のまま杏を見る。

〇同・キッチン
杏、ニコッと笑う。
杏N「彼のお嫁さんになること」
杏「ん? 秘密」
杏M「(しゅう)ちゃんに告白するなんて、絶対言えない」
杏、冷蔵庫から麦茶を取り出して飲み始める。
杏M「言ったら最後。きっとまたバカにされるから……」

〇同・リビング
誠、揶揄うように言う。
誠「遂に兄貴に告るんじゃね?」
悠斗、茶化すように笑う。
悠斗「嘘だろ? 玉砕されることぐらい、バカだって……」
誠と悠斗、杏の顔を見てハッとする。
暁斗、無表情のまま杏を見つめる。
杏、頬を赤らめ、ふくれっ面をする。
静まり返るリビングにテレビの音声がやけに響く。
テレビの音声「所により急な雷雨にご注意ください」

〇公園・噴水の前
杏、スマホ画面で時間を確認する。
杏M「10時か。早すぎたな……」
杏、頬を膨らませる。
杏M「釣り合わないことぐらい分かってるよ」
杏、ため息をつく。
杏M「でも好きなんだもん、しょうがないじゃん」
杏、噴水の前を行ったり来たりする。
杏N「小さい頃からずっと修ちゃんだけを見てきた」
杏、近くのベンチに腰かけて待ちぼうけする。
杏N「何度も告白しようと思った。でも……」
(回想)
〇通学路(夕方)
T「7年前」
暁斗、大笑いする。
杏、怒って暁斗に問う。
杏「何で笑うの?」
暁斗「修くんが杏を好きになるわけないだろ?」
杏「そんなの分かんないじゃん!」
悠斗、笑顔で杏の肩を軽く叩く。
悠斗「残念だったな!」
杏「まだフラれてないし!」
誠、思い出したかのように言う。
誠「あっ! 兄貴、美人が好きだって言ってたぞ」
杏、涙を浮かべる。

〇ファミレス(夕方)
T「3年前」
誠、杏が残しておいた苺を横取りする。
杏「ちょっと!」
誠、満足そうな顔。
誠「食べないからいらないのかと思った」
杏、悔しそうな顔で暁斗に泣きつく。
杏「暁~、誠が私の苺食べた!」
暁斗、無表情で本を読む。
暁斗「うるさい」
杏、暁斗を睨む。
悠斗、冷めた目で窓の外を見つめる。
杏「悠ちゃん?」
杏、悠斗が見つめる方に顔を向ける。
修と女子生徒が仲良さそうに二人で歩いている。
杏「え……」
杏、放心状態になる。
暁斗、杏をジッと見つめる。
(回想終了)
杏N「自信がなくて、ずっと告白できなかった」
杏、楽しそうな家族連れやカップルをうらやましそうに見る。
杏M「私も修ちゃんと笑い合いたい」
杏N「伝えなきゃ、変わるものも変わらない」
ゴロゴロと雷の音が聞こえ始める。
杏、黒い雲を見つめる。
杏M「雨、降りそう」
杏N「だから私は、この関係を変えてみせる」
杏、スマホ画面を見つめる。
杏M「どうして来てくれないの?」
杏、既読にならない修へのメッセージを見つめる。
スマホ画面に一粒のしずくが落ちる。
杏、目が潤む。
杏「修ちゃん……」
一気に激しい雨が降ってくる。
杏、びしょ濡れになりながらトボトボ歩く。
杏M「……ねぇ、どうして?」
杏、立ち止まったまま俯いて涙を流す。
暁斗、傘をさして杏に近づく。
杏M「こんなに好きなのに……」
暁斗、自身の羽織ものを杏にかける。
杏M「……!」
杏「修ちゃん!」
杏、期待するように顔を上げる。
暁斗、力を失ったような目で杏を見つめる。
杏、暁斗の背後に稲光が見える。
暁斗、口を開く。
雷鳴が鳴り響く。
杏、目を見開く。
杏「嘘……」

〇病院・個室(夕方)
修、ベッドの上で目を瞑り動かない。
修の母、ベッドのすぐ近くで泣き崩れる。
修の父、妻の背中をさする。
誠、修を見つめたまま立ち尽くす。
誠M「何でだよ」
誠、涙が溢れ出す。
誠M「アイツ、どうすんだよ……」
誠、身体を震わせながらズボンをギュッと握る。

〇同・個室(夕方)
杏、病室に入る。
杏N「きっと悪い夢を見ているだけ」
杏、修に一歩ずつゆっくり近づく。
(回想)
〇公園・噴水近くの建物
暁斗「(おさむ)くんがバイクで事故った」
杏、目を見開く。
杏「嘘……。修ちゃんは?」
暁斗、黙ったまま俯く。
杏、暁斗に詰め寄る。
杏「ねぇ、暁斗! 大丈夫って言ってよ……」
暁斗、辛い顔をする。
(回想終了)

〇病院・個室(夕方)
杏N「夢なら覚めて! そう何度も願った」
杏、修に近づくにつれて涙が溢れ出る。
杏N「でも本当は分かってたんだ」
杏、変わり果てた修の姿を目の当たりにして泣き崩れる。
杏「イヤァァァ!」
杏N「どんなに願っても現実は変えられない」
誠、上を向いて必死に涙をこらえようとする。
悠斗、ソファに座ったまま頭を抱えて涙を流す。
暁斗、杏を見つめたまま静かに涙を流す。

〇永明大学・食堂
T「3年後」
杏、友人の松澤友里(20)と食事をしながら笑い合う。
杏N「修ちゃんの死後、私は生きる気力をなくした」
黄色い声が聞こえてくる。
杏、声の聞こえるほうを見つめる。
友里、頬杖をつきながら騒がしい方を見る。
友里「凄いよねぇ。まぁ、あのルックスで医学部じゃ当然か」
T「松澤友里 20歳 建築学部」
杏N「私は生きているのは彼らのお陰だ」
杏、女子に囲まれてうんざりした顔の暁斗を見る。
杏M「迷惑そう……」
杏、女子に囲まれて嬉しそうな悠斗を見る。
杏M「双子なのに何であんなに違うんだろう?」
杏、クスッと笑う。
杏N「私は、新たな夢を見つけた」
友里、ニヤニヤしながら杏に問う。
友里「……で、どっちが好みなの?」
杏、友里の思いがけない質問に目を見開く。
杏「え? ただの幼馴染だから……」
友里、口を尖らせる。
友里「えぇ、つまんない!」
杏、困った顔をする。
杏N「修ちゃんが叶えられなかった夢を叶えること」
誰かが杏の背後に近づく。
杏N「それが私の生きる道」
友里、頬杖をついて言う。
友里「あんなイケメンと恋したいな」
杏、クスッと笑う。
杏「友里ならできるよ」
友里、真顔で杏の顔を見る。
友里「杏だってできるよ、新しい恋」
杏、頷く。
杏「修ちゃんより好きになれる人なんて……」
友里「いい男はいっぱい居る! どんどん恋しよう!」
杏M「辛いだけの恋なんて……」
誰かが杏の肩をトントンと軽く叩く。
杏M「え?」
杏、振り向こうとする。