深夜13時の夜行バス


私たちは一通りの話をこのご老人に話し聞かせた。決して興味本位ではないことも。
「まぁ、そう言うことでしたの」
私の向かい側に座ったご老人は口元に手をあて目をまばたいた。動揺はしているであろうがぴんと背筋をはったその姿は姿勢がいい。

「それにしても―――葵にそっくり……
私はてっきり葵が生き返ったのか、と」

ご老人は私と写真の間で視線を行ったり来たりさせている。

生き返る―――そんなことがあるのだろうか。

「いえ、偶然です。私は生まれも育ちもこの街の者じゃありませんし」
「じゃぁ生まれ変わりってこと?」と紀子ちゃんがわくわくと顔を輝かせる。

生まれ変わり―――なるほど、言葉を変えるだけで随分印象が変わる。

ご老人はちょっと顔をしかめた。
「そんな夢みたいなこと……」と口元を歪める。

「ただの他人の空似かと」と私は口添えした。前述した通り、私の出生にこの土地は縁もゆかりもない。郷倉と言う名の親戚も居ないし、子孫だとも考えにくい。

「でもそっくりだよ」と紀子ちゃんは不服そうだ。
この年頃の女の子はエキサイティングな刺激を求めているのだろうか。

「あの―――あなたは葵さんの叔母さんだと言うこと、紀子ちゃんから窺いました」
「ええ、姉とは歳が離れていて……葵とはまるで姉妹のように育ちました」
「葵さんはこの家でお住まいに?」塩原が聞く。
「……ええ。結婚する前と、時折里帰りを…。今はすっかり朽ち果ててしまったのですが、当時名のある名手の家で―――
わたくしどもの家は繊維工業で成功をおさめ、同じく繊維工業の若旦那と葵の縁談が決まりました。
葵は何せこの街一番の器量良しで……贔屓目ではありませんが、噂では街の男衆の殆どが葵との縁談を望んでいたとか……なので向こうはかなり乗り気で
わたくし共の工業とは比べ物にならないぐらい大きな工業で……」

「政略結婚……」塩原が小さな声で頷き、ご老人に分からない程度に顔を歪めた。