深夜13時の夜行バス


早く……

早くこのバスを降りたい!
その一心だった。

私は前の席に移動すると……流石に喪服の女性が座った場所を通るときは足がすくんだ。けれど勇気を振り絞り運転手さんに

「すみません、〇〇駅ってあとどれぐらいですか?」と聞いた。
「道が渋滞していないので10分少々かと」
よっぽど『すみません、急いでいるので』と言いたかったが何とか留めた。タクシーじゃあるまいし。

最前列……運転手さんのすぐ後ろに座り両肩を抱きしめて、きゅっと目を閉じた。
こんな感覚初めてだ。

『次は〇〇停留所~、〇〇停留所~お降りの方は…』

とのバスの運転手さんの声を聞いて、私は慌てて降車ボタンを連打した。
バスがきっちりとバス停に到着すると、私は逃げるようにバスを降りようとした―――ところで、またもバスの表示時間が気になった。

相変わらず電光掲示板には『13:00』の表示が。

何かがおかしい。

だって私が乗ったのは夜中の1時過ぎだよ。

なのに『13:00』って。
これも壊れた表示のせいなのかな。
けれど、その時の私はその表示の意味を気にする余裕なんてなく、殆ど逃げるようにその場所を後にした。

薄暗い道を一人で帰るのが何だかとても怖かった。
歩いてたった十分足らずなのに…

そんな筈ないのに後ろから「ひた…ひた…」と足音が聞こえてきそうだ。

直感的に『葵さんが私を追いかけてくる』なんて馬鹿げた妄想すら浮かんできた。
自然私の足取りは早くなった。
乏しい外套の中、私はスマホを開いた。
暗い道の中、あの『葵さん』が追いかけて来たらどうしよう。
ううん、そんなことは今まで一度も無かった。
彼女は必ず途中の停留所で降車していったから。

そもそもあの人が『葵さん』だと決まったわけじゃない。

それでも恐怖が(まさ)った。

スマホのメモリを開いて、まっさきに”お母さん”と目がいったけれど、こんな時間じゃ流石に寝てるだろうし、こんな超過労働を強いられてると思われたら仕事を辞めさせられるかもしれない。
敦子?奈津美?


塩原―――