深夜13時の夜行バス


塩原は小走りにやってくると

「俺、本気だから」
「え―――…?」

「こないだのコンペ勝てたらお前に()おうと決めてた。
ずっと前から、
あの時二人でバスに揺られたときから何年も」

何年も―――……

「でも勇気なくて、今までの同期って関係を崩したくなくて、言えなかった」
塩原は至極真剣だった。

「何言って……」私の苦笑いは途中でかき消された。
ふわりと、心地良い柔軟剤が香ってきたのは一瞬で、温かいぬくもりに包まれた。
それはさっき感じたわけも分からない悪寒を取り去って全てを包みこんでくれるような―――

私は―――塩原に抱きしめられて―――…る?

「ちょっと……ここ人が多いし、暑い…」思わず引きはがそうと押し退けようとすると、ぎゅっと塩原の手に力が籠った。

「……手頃なとこで手を打とうってこと?」
素直になれない私は言ってはいけないことを言った、と言う自覚はあったけれど、塩原は怒った様子はなかった。
「手頃なとこ?」
「……だって経理部の若い…名前分かんないけど仲良さそうだったし…」
「気にしてくれたの?さっきも言ったジャン。付き纏われてるって」
塩原のほんの僅か震える声が聞こえてきて

「だって……私、見た目も中身もキツいし…」
「そんなの知ってる。俺らの付き合い何年だと思ってんの?」
「は……ちねん」
八年と言いたかった。

「返事は急がないからさ、前向きに考えてよ。考えといて」

塩原は自信なげに声を震わせ、やんわりと私の体を引きはがした。

「……じゃ、気を付けて帰れよ。あ、ついたらメールして」

塩原はスマホを取り出し、ふらふらと横に振る。
帰ったらメールって…
何だか、恋人同士みたいじゃん。

何だか妙に気恥ずかしくて
「分かった。送ってくれてサンキュ」とぶっきらぼうに返し、慌てて踵を返した。