「 …おいしい。桃、料理上手だよね。」
「 梓くんは、いつも卵焼きを食べていくでしょ?だから、それを作るときは、梓くんが幸せになりますようにって思いながら作ってるんだもん!そりゃあ、おいしいよ。」
「 そっか…じゃあ俺、幸せになれるのかな。」
雲一つない、自分の何百倍もある空を見上げた。
こんな大空の前では、ずっと自分の脳内を支配していた悲恋のことなんか、ちっぽけなものに思えてくる。
「なれるかな」
願うように放った小さな独り言だけれど、彼女は丁寧に拾い上げて「なれるよ」と微笑んだ。
彼女が居るという手前、あのゲイバーに再び足を運び、彼に会うことはしなかった。
棗とも……彼方からの連絡が減り、自然に会うことも少なくなっていた。
