彼女とは反対側に居た郁巳には、その会話が聞こえなかったようで、イチャイチャすんなよぉ、なんて茶化してきたけれど、それは余裕で無視した。
「 それにしてもさ、アズ、桃ちゃんが人生初カノじゃね?」
「 あー…まあ、そうかも。」
ふいに郁巳が放った言葉に、白々しく答えた。
そりゃ彼女なんていたことあるわけない。恋愛対象は男なんだから。
…といっても、「じゃあ彼氏は居たことあるのか」と聞かれれば答えはNOになるのだが。
「 …桃、その卵焼きちょうだい。」
その場を誤魔化すように、あー、と口を開けた。
梓くんはいつも購買だもんね、なんて彼女は笑って、卵焼きを運んでくれる。
それを見た郁巳が、ひゅーぅ、とおどけて茶化すのが毎日のこと。
