✧
椎葉 棗。それがソイツの名前だった。
白い肌がよく映えるミルクティーの髪、優しく垂れた眉と目、常に弧を描いている口元。
その全てが彼の柔和な性格を表すものであり、幾度もの人を魅了してきた原因でもあるのだろう。そんな棗とは物心つくかつかないかの時期に出会い、以降何年もの時を共に過ごしてきた。
…もちろん、親友として。おれはそうは思っていないが。
尤も相手に劣情を抱いてしまっているのだから、親友などと思えるはずがなかった。
そして、男がその気のない男を愛すること。それは己の身を滅ぼすこととイコールで繋がっていることを、おれは身をもって体感していた。それが、どれだけ辛いことなのか、も。
しかし幸いなことに、俺は小さい頃から腹の底を隠すのが上手いらしい。
棗は、初めて俺の壁を破ってきた人物だけれど…今回は絶対にバレない。バレてはいけない。今までよりもっと心の奥底に何重にも鍵をかけてしまっておけば、きっと誰も分からない。俺だけが知っていて許される気持ちだから。
「 ……ん、ふ…っ 」
相も変わらず寂しい自室に、自身のくぐもった甘い声が響く。先ほどまでアイツと会っていたせいでいつもより声が上擦っているように感じた。虚しいことだとは分かっていても気持ちが良くて、それがないと抑えられないほどの想いだと理解しているが故の行為だった。
