椎葉 棗に呪われたい


「 …ほら。早く行きましょう?」



でも、何も考えなくて良いのなら、それでもいいかと。
そういう投げやりな思いを感じ取ったのか、天海さんは口角をあげて、俺の手をするりと絡めとる。それから、視線がゆるりとあがって、今度はそっちを絡めた。
はは…誘っているのかな、この人は。

あまりにもそういう手つきで触ってくるものだから、「 盛るのは中で、ですよ。」と微笑み返した。



「 はは、うん。きみは、大人っぽいな。」


「 よく言われます。」



ああ、変な感じだ。こういうところに来るのは初めてなのに、緊張なんてちっともしない。
隣でイチャついている李緒さんと村雨さんも、手慣れている様子で、既にそういうムードが出てしまっている。俺は、棗にしたように、天海さんの横顔を盗み見る。


…あ、この人、怖いひとかも。


直感的にそう思ったのは、ついさっきまで綺麗に浮かべられていた笑顔が、一瞬の間に消え去っていたからだろうか。
完全に、表情がない。感情が、見えない。

そうだ、よく考えればバーにいるときの発言…高校生と言う俺に酒を飲ませようとする類のもの、どう考えてもまともな人が言うことじゃない。