椎葉 棗に呪われたい

…まあ3人とも俺よりは上だろうが。


そんなことを考えてる間にも、俺は無意識に棗に似たその人を見てしまっていたようで目が合い「なに」と微笑まれる。そのあと、ふと思いついたかのように、顔をぱっとあげた。


「 ねえ。ここじゃなくって、違うところで飲まない?梓。」


「 どうしてですか、」


「 だって、ここじゃあ梓はお酒飲めないじゃない。もったいないでしょ?せっかく大人の世界に来たのに。」


「 …俺は、そういう『大人』は求めてないですよ。」


「 ふふ、そう?でもやっぱり、せっかくだから、行こうよ。」



有無を言わす間も与えず、その人はカタンと音を立てて立ち上がった。そのままレジに向かう彼をぼうっと見つめていると、後ろから村雨さんと李緒さんにバンッと強く背を叩かれる。
なにするんですか、と批難の意味を込めて睨むと、二人は「まあまあ」なんてにやにやしながら、今度は俺の両腕をつかんで引っ張ってきた。

二人ともそんなに力が強い方には見えないし、と思って腕に力をこめたけれど、腕はぴくりとも動かない。

これは、行かなければいけないのか。
…認めたくはないが、この状況に喜んでいる自分が居る。


天海さんは、棗とは違う。棗じゃない。
けど、似てる。
違うけど、同じなわけないけど、でも興味を惹かれる。

……分かってる、天海さん(偽物)で満たされないことなんか。


ハアとため息をついて、俺は、引っ張られるがままに歩き出した。