___ああ。ダメだ、と思った。
ふいに目線を上げたときに見えたその人が、とても棗に似ていたから。
白い肌も、柔らかい茶色の髪も、目元も、雰囲気も。
その瞬間に興味を惹かれて無意識に仕草を目で追い、おれはやっぱりどうしようもないな、なんて自嘲した。
「 …初めまして。葛生 梓です。」
「 うん、梓、ね。」
「 はい……天海、さん。」
距離を縮めたいのか遠ざけたいのか。自分でもよく分かっていない。
けど、おれの名前を呼んで綺麗に口端をあげるその人を見ていたら、簡単に欲情してしまいそうだ。…それは単に棗に似ているが故なのか?だとしたら相当な阿呆だ。
「 ちょっとまって、置いていかないで!?俺李緒だから!梓!」

