私はこの手の話題に明るくない、というか食事へ気を回せない。自炊を父が入院して以降サボっているし、昨夜はカップラーメンで済ませた。
『大盛り!!にんにくチャーシュー麺』は学生時代より食べている、もはや思い出の味ですらある。

「ごめん、良く分からないや」
「えっと、分からないとは? この中で行ってみたい店が無いという意味ですか?」
「えぇ、食にあまり興味が無くて」
「は? 興味ないんっすか?」

 ーーあぁ、やってしまったな。目を丸くすり西山君のリアクションで察する。シンデレラカンパニーでは若い女性向けの商品を多く扱う。営業部員ならば殊更トレンドに敏感であるべき。

「参考までに伺いたいんですが、主任が外食するならどんなお店がいいです?」
「ファミレス。ハンバーグが好きかな、チーズが中に入ってるタイプの」

 こんな所で格好つけても意味がない。素直に答えた途端、西山君以外から笑いが起きた。無論、彼女達を笑わせようとウケを狙ったんじゃない。

「いいの」

 すかさずフォローに回ろうとした西山君を止める。

「ファミレスとまでは言わないから、もう少しリーズナブルなお店にしてくれれば部長へ掛け合ってあげる」
「……はい、宜しくお願いします。それは処分して下さい」

 見えない尻尾と耳がしょんぼり、垂れた。プロジェクトへの貢献度を加味し要求を通してやりたくなるものの、ここは努めて公正公平にしなければ。
 言われた通り、リスト表をシュレッダーに掛けようとした際、付箋に気付く。

『ガトーショコラが美味しいのでご一緒したいです』

 とある店舗へ添えられたメッセージを読み、慌てて顔を上げるも彼の姿はない。

(もしかして、おねだりだった?)
 私とて彼の頑張りに感謝している。あからさまな贔屓はできないが、デザートくらいご馳走したい気持ちはあるのに。

(お取り寄せが出来るのか。お父さんも甘いもの、好きだしーー)
 西山君のお陰で病室へ顔を出す時間が作れそうなのもあって、さっそくガトーショコラを注文することにした。