西山君がプロジェクトメンバーに加わると、非協力とまで言わないが積極的でなかったスタッフ達は手の平を返し、コミュニケーションを円滑に取れるようになった。

「吉野主任、頼まれていた改善案です」
「ありがとう。助かるよ」
「いえいえ〜主任のお役に立てて嬉しいです!」

 営業部のサモエドが新米主任に懐いた、どうやら周囲はそんな風に捉えているらしい。こうして私のデスクまで来て見えない尻尾をブンブン振っていれば、ドッグトレーナーと思われても仕方がないだろう。

「他には? お手伝いする事はありますか?」
「自分の仕事は?」
「わぁ! 俺を気にかけてくれるんですか? 実はですね、接待に使う店を探してまして。どれがいいと思います?」

 そば耳をたてられるなら聞かせてやればいい、とは西山君の考え。彼はハキハキと受け答えする。
 いきなり忠犬と化し戸惑いつつ、上司の面子を立ててくれるのが有り難くもあって。営業成績トップの人物に指示や判断を仰がれる効果は絶大だ。仕事を振ったり、ミスを指摘しても素直に受け入れて貰える。

「接待費は可能な限り控えて欲しいのだけれど……」

 リストアップされた店舗情報を確認してみると、流行りのレストランや星がつく名店が並ぶ。

「いや、これは流石に予算が……と言うより予約は取れるの?」
「そこは抜かりなく」

(コネクションがあるという訳、か)

「だとしても決裁はおろせないな」
「あー、やっぱり高いですもんね〜ちなみにどの店が気になりました?」