躊躇う息遣いが甘く、擽ったい。もっと焦らしてみたい。だけど、もどかしくて。

「知ってる? 犬は宝物を埋めるのよ」

 緩めてあるネクタイを掴んでこちらへ寄せ、ニカッとらしくない笑顔を突きつけた。

「へぇ、そうなんっすか〜」

 まず額にリップ音が落ちた。次は頬、その次は目蓋へ。探る口付けにもう一度微笑む。

「お許しも出たことですし、名前を書いてちゃんと埋めようっと!」

 言うやいなや膝裏へ手を入れられ、抱っこされる。視界が高くなり、整理整頓が行き届く間取りを把握。私が埋められる場所を察したうえ彼の首へ手を回す。

「ふふ、名前? 和真って書くの?」
「そうですよ。あなたは美由紀の和真ってマーキングして下さい」
「もう! マーキングって言い方!」
「他の女性が寄ってこないようお願いしたいです」
「まぁ、そういう事なら、うん」
「くっきり、はっきり、バッチリお願いしますね」

 それでも寝室へ入る前は間が出来る。

「大事にします。この先何が起きようと、美由紀の一番の味方でいます」

 まるで神聖な誓い。

「うん、ありがとう。和真が優しくしてくれて嬉しい」

 のち、なにやら妙な沈黙。

「ただし、これに関してはがっつかないとは言ってません」
「え?」
「リード、離さないで下さいね?」

 ドアが開き、即座に後ろ手で鍵を閉める音がした。そして、握っていたネクタイが滑り落ちていく。