「ごめん、しどろもどろで、その」

 結局、何が言いたいかと言うと。

「ご機嫌取りでエッチな事をさせて貰えても嬉しくないです」

 ぴしゃり、突っぱねる物言いに思考が止まる。

「俺は吉野主任が側に居てくれれば……って、何で泣きそうになってるんですか?」
「え? あぁ、西山君を怒らせちゃって」

 指摘され、表情が崩れていると気付く。西山君は見事なまでにオロオロし、抱き寄せて良いものかと迷うジェスチャーをした。

「つまらないよね、私って」

 初めてでもないのに、緊張して強張って。しまいには仕事が頭から離れない。興が冷めて当たり前だ。
 彼のシャツの裾を引っ張ると両手が広がる。障害物の椅子を避け、空いたスペースへ自ら収まっていく。

「いや、怒ってはなくて。紳士ぶったつもりなんですよ? 無理強いする気はないので」
「そういうつもりで部屋に上げたのに?」
「それを言われちゃうと困りますね〜下心ありますし」

 私の頭の上へ顎を乗せ、幼い子を慰めるみたいな手付きで背を撫でてくる。

「このまま抱いても、ベッドの中で部長の顔をチラつかされたら癪だな」
「違う、私と部長は!」
「あー、その意味で言ったんじゃなく」

 頬を両手で覆われ、親指の腹で目尻が拭われた。そして改めてポンポン、頭を撫でる。

「つまらないのは俺っす。仕事に嫉妬しちゃいました。例の件が気掛かりで集中出来ない気持ち、分かってあげたいと思う一方、俺を構って欲しいとガキみたく拗ねました」
「……素直ね」
「吉野主任を泣かせるくらいなら白状します」

 見えない耳と尾を垂らす。大型犬の真似は私をリラックスさせるパフォーマンスであるのは明白だ。いつだってそう、身振り手振りを添え安心を与えてくれる。

「西山君……」
「まずはその西山君、吉野主任って呼び合うのを止めて、距離を縮めて行きませんか?」

 私は素敵な提案をする唇へ背伸びして近付く。

「本当はキスするのだって怖いんです。ずっと片想いをしてきて、想いをいきなり全部ぶつけたら壊れちゃうかもしれないから。俺は優しくしたい、甘やかしたいーーあなたは宝物です」

 言いつつ、西山君は仰け反った。