(よし、これで……)
 メールを送信し終えると背後から抱き締められた。

「先にシャワー浴びてきてって言われ、嬉々と準備してたらこれだもん。告発メールっすか?」

 甘く拗ねた息を耳へ吹き掛け、頭を撫でてくる。
 西山君の部屋に上がり、そういう流れへ持ち込まれたはずの私は今ーーパソコンを操作していた。

「お風呂入った?」

 腕はシャツを着たまま。

「入ろうとしたんですが主任が気になって。案の定、リビング覗いたら俺のパソコンで仕事を始め、絶望して見守ってました」
「うっ、ごめん」

 彼が支度をするうちに文面を考え、然るべき対処を済ませる段取りであった。ところが実際は片手間でこなすものじゃない、人ひとりの人生がかかっている問題だ。そう思うとキーボードを叩く指先は慎重にならざる得なくて。

「じゃ、じゃあ、改めてシャワーをどうぞ?」
「気分が乗らなければいいですよ」

 西山君はメールが完成するまで声を掛けてこず、約1時間待ちぼうけした事となる。拗ねるを越え、興味を失わせるに充分過ぎるだろう。

「あ、なんか軽く食べます? 主任、食べてないでしょ? この時間でもラーメン頼めるかな」

 バックハグが解かれる気配に慌て、腰を上げ前屈みで繋ぎ止める。

「待って!」

 せっかくの良い雰囲気に仕事を持ち出されれば気分を損ねるのも当然。デリカシーの無い真似してしまい反省する。

「……ならシます?」

 だけれど、あの件を後回しにしておけないのも本当。

「シャワーどうしますか? 一緒に浴びます?」

(西山君、機嫌悪くなっちゃったなぁ)
 軽々と体勢を回転させ、椅子を挟んでお互いを視認する。
 改めて見ると西山君は顔が整っており異性と意識、恋人だと意識すると身構えてしまう。本当に私でいいのだろうか。

「さっきまで上司と部下で、急な変化についていくのが、その、シャワーはちょっと」

これ以上、西山君の機嫌を害したくないが戸惑う。