「トラブルでないなら何? 私じゃ力になれないから話したくない?」
「あー! そんな意地悪な言い方やめて下さいよ〜俺は吉野主任が心配で戻ってきたんですから」
「またそんな調子のいい事を言って」
「本当ですって」

 『心配』というワードが何処に掛けられているのか、探ってしまう。圧倒的な経験不足? それとも周囲との摩擦?
 他でもない西山君に主任の器を試されるのは気まずく、眉間へシワが寄るのを止められない。

「あはは、少なくとも俺は主任の敵じゃないっす。煙たがらないで下さい」
「ご、ごめん、そういうつもりじゃない。私、疲れてるのかな?」
「だから休んで下さいって言いましたよ」
「……うっ」

 百戦錬磨の営業部員からすれば、私の胸の内を読むなど容易いか。

「でも、まぁ、疑心暗鬼になっちゃいますよね?」

 行儀よく腰掛けていたはずの西山君は床を蹴り、足を組む。

「ここは華やかに見えても水面下では足の引っ張り合いですし〜?」

 とか言って、その長い足を引っ張らせる気は更々ないくせに。

「……何が言いたいの?」
「俺は主任を恨んでません。むしろ感謝しているくらいでして。簡単に言うと俺は主任になりたくなかった。現場を回っていたいんです。だ、か、ら、そんな怖い顔しないで下さいよ〜」

 降参とばかりに両手を上げたかと思いきや、ワンッと鳴いて耳の形にする。

「あいにく、こういう顔なの」
「えー!」
「えー! じゃない」

 私は知っているんだよ。人懐っこい振りしておきながら部長の椅子を狙い、牙を剥かない角度で笑顔を調整しているって。

「用事を済ませたら帰りなさい。残業で身体を壊したら本末転倒でしょう?」

 西山君に健康管理しか指摘できない。と、彼は立ち上がり、私のデスクへ手を伸ばす。

「西山君?」
「休息が必要なのはお互い様ですよね? さっさと片付けましょう」