一声を発した時点で勝ち誇った顔する朝峰さん。ピンクのルージュが綻ぶ前に主張を繋げる。

「部長と私は不倫関係ではありません。それは誓って言えます!」

 西山君、朝峰さん、皆の目を見て強く訴えた。
 ある女性社員だけ視線が交わらず、その俯いている姿に直感する。
(彼女、小佐田部長にセクハラされていたのね)

「しかし、私は部長に引き立てて貰ったのもあり声を上げませんでした。不適切な行為に否を唱える立場でありながら、抱えているプロジェクトへ波風を立てたくないと口を閉ざしてしまいました」

 再度、周囲を見れば女性社員と目が合う。

「申し訳ありませんでした。私がもっと早く行動していれば……」

 頭を下げる。

「今更ですが、然る場所へ報告します」

 社内にはコンプライアンス違反を通報する仕組みがある。通常、通報者は秘匿されるがこうして宣言したら意味がないだろう。
 本当のところ、部長の報復を思うと身は竦む。最悪、会社に居られなくなるかもしれない。

(……だけど、これでいい。これでいいんだ)
 不思議とすっきりする部分もあって。呆気にとられる朝峰さんへ笑みを向ける余裕が生まれていた。

「私はこれで失礼します」

 告発の勇気が消えないうち部署へ帰ろう。

「え?」

 踵を返すと既にドアが開いていた。

「お付き合いしますよ、吉野主任」

 西山君がエスコートを申し出るポーズで立っており、固まった私に痺れを切らしたのか手を引く。

「お疲れ様っす〜! 俺はご主人様と散歩へ行ってくるね」

 彼は同僚等に軽く挨拶を済ませた。