「同性でも頭を撫でたらセクハラじゃない? やめろよ」

 パシンと乾いた音がする。朝峰さんの行為を甘んじて受け入れるつもりだった前髪が揺れ、磨かれた革靴が視界へ踏み込む。

「な、っ、なにするんですか! 痛いじゃないですか!」
「払っただけなのに大袈裟だな。髪の毛掴まれたら痛いのは、吉野主任も同じだろうに」
「西山さんは吉野さんの味方をするんですね」
「味方もなにも。俺、営業部のサモエドだよ? どっちに付くかなんて聞くの?」

 躊躇わずに答えて私の顔を覗き込む。こちらを真っ直ぐ見つめる瞳はーー格別に優しかった。

「大丈夫っすか?」
「え、えぇ」
「なら良かった」

 頷きつつ、朝峰さんへ言葉を足す。

「一方的な言い掛かりは良くないよね? 主任の言い分も聞いてみない?」
「言い掛かりって! わたしは!」
「しー!」

 唇の前に人差し指を立てて沈黙を促す。にこやかでありながら独特の圧があり、彼女以外も食事の手を止めた。

「それじゃあ、どうぞ」
「どうぞと言われても……」
「反論の機会ですよ。ひとまずお水、飲みましょうか」

 会は立食式となっていて西山君は空いたグラスへ注ぐ。それを渡してくる際、震えた指先を励ますよう重ねてきた。

(ここで自分の行動を繕っても、何も解決しない)
 水を飲み干し、ふぅと息をつく。西山君は朝峰さんの隣へ移動する。

「朝峰さんが見たと言う通り、私は会議室で小佐田部長に頭を撫でられました」