「遅くなりました!」

 欠席予定となっていた私が入室すると辺りは静まり返る。

「ご心配をお掛けして申し訳ありません」

 表情は崩さず、カツカツとヒールを宴の中心まで進めて深く頭を下げた。

「噂をすれば」
「うわぁ、よく来れたよね」

 想定内のリアクション。だけど怯みそうになり、唇をぎゅっと噛む。

「吉野主任、お疲れ様ですー」
「朝峰さん……」

 まさか、彼女から接近してくるなんて。勢い良く顔を上げたものの、言葉が出てこない。
 朝峰さんの頬は赤らみ、瞳が好奇心でぬれている。

「わたし、吉野さんを尊敬していたんですよ。恋愛やオシャレにうつつを抜かすことなく出世一筋って感じで」

 私との対比を強調するみたく着飾った出で立ちで後ろ手を組む。社内の飲み会の場としてはいささか派手であるが、似合っていた。

「でも実際は小佐田部長とーー」
「それは違う!」
「違いませんよ、この目でちゃんと見ましたもん。部長が吉野さんの頭を撫でているところ!! ほら、こんな風に」

 朝峰さんのキラキラした爪が前髪を捉えようとしてくる。