「営業部と経理部の合コンって、朝峰さんが仕組んだって話。あれ本当かな?」
「あー、小佐田部長と吉野主任の不倫現場を目撃したってやつか。黙っていて欲しければ合コンしろとか、朝峰さん肉食系過ぎる」
「結果的に黙ってないし」

 内容を聞くうち、目の前が真っ暗に染まる。

「てか、吉野主任もよくやるよねー? 小佐田部長とかマジあり得ない」
「女が偉くなるにはカラクリがあるんだよ」

 誓って不倫などしてないが、朝峰さんに勘違いさせてしまう心当たりはあったーー会議後、呼び止められた時。

 もちろん、頭を撫でられたのは不同意である。だがしかし、それをセクハラだと訴えない自分に非がまるで無いと言える?
 主任の立場に波風立てたくなくて、声を上げなかったんじゃないの?
 小佐田部長の過剰なスキンシップに悩む女子社員が他にいると考えなかった?

 彼女等が早く立ち去るのを祈りつつ、行いを省みる。

(ーーまさか、そんな事になっているなんて)
 今更ながらスルーしていたコンプライアンス違反の重大さを思い知る。
 情けない、恥ずかしい、立っているだけで精一杯。ここから飛び出し真っ向から否定する勇気はわかず、それどころか突っ伏して消えてしまいたい。

 やっと人の気配がなくなれば、次は着信が入る。画面を確認せずボタンをスライドさせており、これは皮肉にも営業部へ配属され癖づいた仕草だ。

「もしもし? 吉野主任〜お疲れ様っす」

 西山君の声と認識した瞬間、口元を覆う。

「主任? 今どこっすか? まだ会社です?」

 お疲れ様さえ返せず、はふ、はふ、浅い呼吸を繰り返す。

「主任? もしかして泣いてません?」