日に日に西山君からの好意を意識せざる得なくなっていた。気付かない振りは出来ない。恋愛感情は置いておき、彼は自分の何処に惹かれたのだろう?

(いや、恋愛感情抜きに考えられないか)
 上司の覚えを良くしたいだけでここまで気に掛けて貰えるはずがないから。むしろ、出世の為と勘違いするのは西山君を侮辱するまである。

『このご時世ーー結婚が女性の幸せとは言わないけれど、頑張ったり泣きたくなった時に気持ちを分かち合う存在がいてもいいんじゃないか?』
 父の声が聞こえる。西山君はあれから二回、三回と見舞ってくれ、その度に言われた言葉は耳に残ったまま。
 仮に、仮の話だ。西山君と交際するとして、それは私のキャリアを脅かす。
 シンデレラカンパニーでは社内恋愛を原則禁止、役職付きが部下と交際するのを特に良しとしていないのだ。

(私からの告白を断りきれず、付き合ってくれる可能性もゼロじゃないし)
 パワハラ、セクハラと糾弾される未来など怖くて踏み出せない。

「どうしたらいいの、よ」

 お腹の底から迷いが込み上げる。と、こちらへ向かってくる足音がした。こんな顔を見られたくない、バッグを引っ提げて個室へ入った。

「そう言えば聞いた? 営業部の西山さん、恋人がいるって」
「聞いた、聞いた。朝峰さん、あちこちで触れ回ってたもん」

 やってきた二人組はメイク直しが目的らしく、カチャカチャとポーチを漁る音が響く。
 私はドアへ張り付き、彼女等の会話に息を潜めた。