「西山君?」
「はい、幹事の西山ですよ〜」

 クーポンを取り返そうとした私をかわし、挨拶する。

「どうも〜えっと」
「松永です。お噂はかねがね伺っております」
「噂?」

 西山君の登場で部内は様子が一変。とぼけた振る舞いをしても、自分へ視線が集中するのを感じているだろう。

「西山さんが来るの?」
「なら話は違う。参加しようかな」

 こんな声も聞こえ、西山君の耳へも届いているはずなのに反応はない。

「主任、俺って有名みたいっす〜」
「でしょうね。いいから、それ返して」
「嫌です」
「嫌って」

 クーポンをポケットへ隠してしまう。

「ラーメン一杯で買収されちゃダメです」
「買収? 何を言ってるの」
「そんなに食べたいなら俺がご馳走します〜餃子とチャーハンも付けますから!」
「もう! そういう事を言ってるんじゃないでしょ?」

 駄々をこね、ガードされたクーポンを取り返すのは難しい。

「ごめん! 松永君」

 やりとりを腕を組み、冷やかに見守る松永君へ手を合わせた。

「いえ、吉野さんも大変ですね」
「あはは、まぁね」
「大事なプロジェクトの前にこんな馬鹿げた事をやらされて。これ以上、見ていられない。吉野さんは経理部へ戻ってくるべきだ」

 乾いた笑いは松永君の表情をますます険しくさせる。

「見ていられないなら、どうするのさ?」