俺は有能さをアピールしたものの、効果はあまり得られなかった。むしろ仕事が出来ない方が主任の面倒見の良さを味わえたらしい。
(許さんぞ、松永! まだ会った事ないが)
 これより相まみえる松永に対して犬歯が疼く。

「西山さんはサモエドって言われてるんですよね? わんちゃん、好きですか?」
「ん?」

 この流れは愛犬の死写真を見せてきて部屋へ誘わられるパターン。すかさず牽制をしておく。

「と見せかけ猫派なの、俺。警戒心がバリバリあって懐かない猫が好き」

 言いながら吉野主任の顔を浮かべる。

「でね、俺だけに甘えてくれるよう一生懸命お世話してるんだ〜」
「それ、彼女さんがいるって意味ですか?」

 好きな人がいる、片思いをしていると公言してもアプローチを受ける。それはとても光栄だけれども。

「そんなところ。ごめんね」
「えー、なんだかフラレたみたいになってる!」
「あはは、ごめん。自意識過剰男で」
「彼女がいるならいるって、分かりやすく顔にでも書いておいて下さい」

 朝峰さんは不貞腐れ、走り去る。

「顔に書く? そんな無茶な……」

(いや、それもありだな。書いて貰うか)
 廊下から外の景色を眺めると自分の顔も映り込む。
 さておき今日も一日、長い戦いになりそうだ。