てっきり主任と俺の邪魔をしたいのだと思っていたが、それだけじゃないのかも。
 スンッ、鼻を鳴らす。

「営業と経理は関わる機会も多いし、コミュニケーションを取った方がいいんじゃないかと考えまして」
「いいアイディアだね」
「ですよね? 実は吉野さんが経理にいた頃から要望はあったんです! でも吉野さんってば、なぁなぁになるのは駄目だって。仲良くなり過ぎると作業効率が落ちるとか、なんとか」

 わざとらしく頬を膨らめた朝峰さんを経理部へエスコートする事にする。

(これは色々聞き出せる)
 主任が部間で飲み会をしたがらない理由は察しが付く。仕事とプライベートを切り離したいからだろう。

「吉野主任は社内恋愛を容認していないからね〜」

 彼女がそういう意味で場を設けたがっているのを否定しない。社会人となると出会いの機会はめっきり減る。

「吉野さんは恋愛自体を諦めてるんじゃ? あ、でも松永君は吉野さんを好きなんじゃないかな!」
「……松永君?」
「経理部側の幹事です。吉野さんが異動するまで色々と面倒をみてました。ここだけの話、仕事の覚えが悪くて」
「へぇ」

 それは初耳だ。どうやら俺のセンサーの張り方が甘かったらしい。
 主任が好意の矢印を向ける可能性は低く、逆に向けられるパターンを想定し警戒を怠らなかったのだが。