「話はこれで終わりだ。経理部とは話がついてる。吉野、古巣だろう? 後は頼む」

 席を立ち、部長は持っていたファイルで頭をポンポン撫でてきた。物越しでも不快感が込み上げてくる。

「それ、やめた方がいいっす。セクハラですよ」

 バチンッーーその音がするまで数秒も掛からなかったと思う。見上げたら西山君の大きな手が部長を叩き落としていた。

「西山!」

 顔を真っ赤にする部長に西山君は赤い舌を出し、おどける。周囲が一触即発の空気を固唾を飲み見守っているのを承知しているからこそ、事なさげに振る舞うのだろう。

 彼の心中がいかほどであるか、察して余る。
(私にフォローできる力があれば……)

「はいはい、仰せのままに。ほらほら、吉野主任も行きましょう」
「え? 私も?」
「幹事を2人でやるのでは?」

 ニカッと微笑む。ただし、瞳にはしっかりと私の手元を映す。悔しくて丸めていた拳を見逃さない。

「これ以上、部長を怒らせたら大変っす」

 どの口で言うのやら。私は肩を竦めて部内を後にする。部長が私達の背に向け、お小言を投げ付けてきたが気にしない。
 いや西山君の隣にいると気にならない、が正しい。部長には天敵であっても私にはーー

(番犬?)

 その高い身長を横目にふと思いつく。