「やっぱりモテると思う」
「モテませんって。もしも主任と噂になったら初スキャンダルですね〜浮いた話のひとつくらいないと面目が立たないので、協力してくれます?」
「協力って、もう!」

 ひょうひょうと受け流され、肩の力が抜けていく。
 車という密室空間はベルガモットの香りで充満しており、私はどうしたって彼を意識してしまう。そもそも男性の車に乗る事自体、緊張するんだ。

「ーーいい」
「え? 今度は何?」

 聞き取れなかった意味合いで髪を耳へかけた。

「最近は髪を巻いてますね、似合ってます」

 間違いなく言い直した言葉は別の響き。弛めた気持ちを引き締め、シートベルトも締まった。

「ありがとう。ネイルといい、よく気が付くね。西山君はモテーー」
「ないっす。俺、主任の事は見てます。それこそ穴が開くくらいに。照れてもちゃんとお礼を言うの、育ちがいい感じがします」
「育ち? 父子家庭だよ」
「お父さん、主任を大事に、大事に育てたって印象ですね。お会い出来て良かった」 

 『モテそう』は私なりの褒め言葉であるが、彼は邪険に突き返す。そして言葉の巧な操り方をお手本みたく披露する。

「かわいい」

 目を合わせなくとも動揺を察知し、口角を上げた。

「上司をからかうものじゃない」
「今は勤務時間外っすよ」
「ああ言えばこう言うのね!」
「俺は営業部員です。口では負けません」

 ーー拗ねさせたお詫びに食事をご馳走する、その流れを作る彼の会話運びは完璧であった。