「自分は西山和真と申しまして、吉野主任にはいつもお世話になっています!」

 父の病室で自己紹介をする西山君。
 さて、何故こんな光景になっているかと言うとーー

「せっかくなので、お父さんと一緒にガトーショコラを食べたくて〜」

 だ、そうだ。『せっかく』のワードが何に掛けられているのか、よく分からない。ただ、父は彼を歓迎する。

「美由紀が営業部へ配属されると聞いた時は心配でね。なにせ未経験だろう? 主任なんぞ務まらないんじゃないかと」
「吉野主任は経理部での誠実な仕事ぶりを評価され、抜擢されたんです。営業畑ではない人からの新しい目線、それが僕等には必要と考えます」

 一人称を僕にした滑らかな社交辞令はひたすらむず痒い。まぁ、ここまで付いてきて私の悪口を伝えるのもおかしいものの、随分と美化され父の顔まで輝かせる。
(お父さんのこんな嬉しそうな顔、久し振りに見たな)

「いやー良かった、安心した! 君のような部下が居てくれたら美由紀は大丈夫だ」

 ついに握手を交わし、これからも娘をよろしく頼むと念じ出す。

「ちょっとお父さん! 西山君が困ってるでしょう?」

 流石に割って入る。次いで西山くんに申し訳ないと目線を送った。
 
「俺、入社してすぐ母親が入院する事になって、看病のために退職を考えてました。そしたら主任が助けてくれたんですよ? 覚えてます?」

 と、かぶりを振って微笑む。困ってなどない、むしろ自分を困らせているのは私の方だって瞳で訴え返す。

「会社でも支えられる制度があるから申請しなさいって教えてくれました。その節はどうもありがとうございます」