「お父さんのお加減、どうっすか?」
「お陰様で。退院の目処もつきそうなの」

 父の容体については声の大きさを戻す。

「それで自宅療養に切り替わったら……」
「休みを取りたかったり、早退したい場合は遠慮なく頼って下さい!」

 任せなさいと胸を叩く西山君。

「これも査定の為?」
「んな訳ないっす」

 てっきりその通りだと発すると思いきや、彼は否定し再び声を潜めた。

「ガトーショコラみたいな俺だけのご褒美、たくさん貰いたいから頑張ります」

 ニッシッシ、犬歯を見せて笑う。表情は無邪気でありながら、どこか色気を含む。

「さっ、今日の分を終わらせてお見舞いへ行きましょう〜! 俺も今日は残業しないぞ」

 あのガトーショコラは賞味期限が短い。それを承知して、私のこの後を汲み取る。

「はは、西山君ってモテるでしょ?」
「いや全然」

 ポロッとこぼす本音に傾げてみせた。

「首輪が付いている犬に言い寄る程、女の子達も暇じゃないっすよ〜」

 弛めた襟元を指し示し、見えない首輪があると主張。つまり、恋人がいるという意味か。
(まぁ、西山君なら彼女がいて当たり前ね)

 私は深く考えず、頷いていた。