満月に引き寄せられた恋〜雪花姫とツンデレ副社長〜

デザイン課の私のデスクには、一般社員と同様にノートパソコンなどの備品が支給された。でも一つ、大きな違いがある。水性絵の具、色鉛筆、マーカー、そしてスケッチブックまで……。

ありがたい。私物のスケッチブックとはメーカーが違うから、紛らわしくないのも嬉しい。

部屋の中央には、大きな作業用テーブルがひとつ。その周囲に、各自のデスクが点在している。

この程よい距離感が、私にはたまらなく心地よい。事務職のように、隣り合わせになることがないから、必要以上に気を使わずに済む。

チーフも、おそらくその“適度な距離”を大切にするタイプだと思う。

──ただ、一人を除いて。



デザイン課では、私とチーフがそれぞれの専門タスクを持っている。

チーフは主に、高級スーパー『伊乃国屋』本店のポップ制作を担当している。

私は、現在進行中の極秘プロジェクト、雪花姫の米袋と桐箱のデザインを任された。

一方、唯一明確なタスクがないのが倉本さんだった。

以前は販売促進部で広告のデザインを手がけていたらしい。けれど最近、その部署に専門のデザイナーが新たに配属されたと聞いた。

伊乃国屋には多くの自社ブランド商品があり、それらのパッケージは以前、私の前任者と倉本さんが手がけていたようだ。でも前任の女性が辞めてからというもの、なぜか外注に切り替えられているという話も聞こえてきた。

──それじゃあ、彼は今、何をしているの?

私やチーフが机に向かって黙々と作業を進めている中、彼だけは頻繁に席を外している。

 

初日の会議を終えてから、私は本格的に作業に取りかかっていた。

広報のお姉さんの言葉にインスピレーションを受け、おおよそのイメージは掴めた。けれど、もっと深く掘り下げたい。

新潟のあの秘境について、自分なりに調べてみる。土地の空気感や風土を知ることで、より的確なビジュアルが描ける気がして。

 

ある程度イメージが固まってきた。今日は袋全体の色合いを決めようと、配色の試作を始めようとした。

──その時だった。

 
「……っ」

 
横から、不意に声がかかる。

……、また、倉本さん。

(はあ……。今日は、どんな“雑用”を押しつけられるの?)

 

挨拶を交わした翌日から、さりげなくでも確実に、雑務が回ってくるようになった。しかも、大抵は急ぎでもない内容。なぜ今、私が集中しているこのタイミングに、わざわざ頼むの?

そのうえ……、彼は時々、私のスケッチブックを無断で覗こうとする。本当に、不愉快だ。