満月に引き寄せられた恋〜雪花姫とツンデレ副社長〜

第三会議室──この会社で一番小さな会議室に、副社長の烏丸さんをはじめ、極秘プロジェクトメンバーの五人が集まっていた。

初めての会議で緊張していた私に気づいてくれたのか、副社長がみんなに私を紹介してくれた。みなさんが温かい笑顔と拍手で迎えてくださって、思わず胸を撫で下ろす。

けれど、ホッとしたのも束の間。副社長の真剣な眼差しが空気を引き締め、すぐに仕事モードへと切り替わった。

 
「まず、商品名は“雪花姫(ゆきはなひめ)”だ」

 
──雪花姫。

どこか神秘的で、美しい響き。プロジェクトの核になるお米の名前にふさわしい。

 
「このお米は、新潟県の東北部、四方を山々に囲まれ、冬には豪雪地帯として知られたある秘境で育てられている。豊かな自然が今なお残る棚田で、大地の恵みと、名水と謳われる水源に育まれて実る特別なお米だ」

 
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。ただの田園ではない、厳しくも美しい自然に守られて育った“神聖な場所”で生まれるお米。

なるほど……、これは、確かに特別なお米だ。

副社長の説明はさらに続く。

 
「先日、みんなにも試食してもらったな。ここでも感想を言い合った。この米の美味さは、文句なしに最高級だ。だが、“これだ”という表現が、まだ出てきていない。ありきたりな『美味しい』以上の言葉が、出なかったはずだ」

 
副社長の言葉に、メンバー全員がうなずく。

すると、その中の一人、広報部の女性が手を挙げて口を開いた。

 
「副社長の先ほどの産地のご説明をもとに、お客様向けの紹介文を考えてみました。
ですが……、何かが足りない気がして。ご確認いただけますか?」

 
彼女が読み上げたのは、こんな文章だった。

『このお米は、新潟の東北部、四方を山に抱かれた、静かな秘境で育まれている。冬には深く雪が降り積もり、一面が白銀の世界に閉ざされる。その山の斜面に広がる棚田では、年月を経て解けた雪水がゆっくりと流れ、太陽と大地の恵みを受けながら、やがて一粒一粒が実を結ぶ。まるで、雪の中で大切に育まれた小さな命のような──そんなお米です。』

……、美しい。その言葉に包まれて、頭の中にお米袋のイメージがふわりと浮かび上がってきた。

けれど、やっぱり……、あともう一歩、何かが足りない気もする。

副社長が広報の彼女から紙を受け取り、それを目で追いながら言った。

 
「よくできている。だが、少し短めにしよう。それと……、もう一押し、味覚についても触れてほしい」