満月に引き寄せられた恋〜雪花姫とツンデレ副社長〜

意気揚々と感想を伝えようとしたものの、言葉に詰まった。先ほどの、他社での面接を思い出してしまったのだ。

淡い色使い、花や木々、蝶や妖精、星や月……。

スケッチブックを見た面接官に、冷たく鼻で笑われたことが脳裏によみがえる。もしここで素直な感想を言ったら、また馬鹿にされるかもしれない。

両手をぎゅっと握りしめ、俯いた私に、熊男が声をかけてきた。


「おい、こっち見ろ。いいか、俺はおまえの“感想”が知りたいんだ。月並みな意見なんぞ聞きたくねぇんだよ。大丈夫だから言ってみろ」


……、やっぱり鋭い、熊男。きっと、私の表情から不安を読み取ったんだ。

今まで何度も馬鹿にされてきた。
いい歳して、妖精だの精霊だの言って……、でも、私は本当にそう感じるんだもん。

もし、また笑われたら──
この会社に来なければいいだけ。逃げ道はある。うん、大丈夫。

珍しく声が震えるけれど、今ならしっかり言えそう……。


「ま、まず、見た目。一粒一粒がふっくらキラキラしてて……、まるでお茶碗の中が、雪光の銀世界。妖精の国みたいで……。で、食べた感想は……、お米の甘さと、桜の香りが、口から鼻へと通り抜ける感じ。雪みたいに、スーッと口の中で溶けて消えちゃう。また食べたくなって……、食べると、無意識に笑顔になれる。温かいお米、って感じ……」


熊男の反応が怖くて、最後は尻すぼみになってしまった。だけど彼は、嬉しそうな顔で、やさしい眼差しを私に向けてくれる。

……、三回目の、キュン……。


「おまえ、やっぱすげぇな。俺が感じてても言葉にできなかったこと、ちゃんと伝えてくれる。それに……、おまえの絵は、人の心を優しく包む。おまえを仕事に誘って、正解だったわ」


グッと嬉し涙をこらえながら、そっとお茶碗に目を落とす。いまは、ただ食べることに集中したい。

──これで三人目だ。

義父、亡くなった彼、そして熊男。
私の作品に、まっすぐ向き合って、褒めてくれた人。

胸のあたりが、ほんわかと温かくなる。
……、と同時に、頭の片隅で、小さく囁く声がする。

『幸せになる資格はない』