「彩巴ちゃん、一体、何があったの?」
瀬川チーフの問いかけに、私はしばらく言葉を探していた。
これまでのように、雑用を押しつけられる程度なら、我慢もできた。けれど、今日は違った。極秘プロジェクトのファイルに手を伸ばそうとした倉本さん。それを止めたら、明らかに怒りの感情をぶつけてきた。
(正直に、話さなきゃ……)
私は、入社以来、何度も倉本さんから雑用を押しつけられていたこと、そして今日、引き出しにしまってあった色鉛筆がケースごと消えていたこと。また、極秘ファイルを奪おうとした件も含めて、ありのままを報告した。
チーフは驚く様子も見せず、静かにうなずいた。
「……、正直に話してくれて、ありがとう。副社長には私から報告するわ。それと──もしよかったら、これ使って」
そう言って差し出されたのは、チーフ自身の色鉛筆のケースだった。
「私はポップ担当だから、ほとんど色鉛筆は使わないのよね。だから遠慮せず、好きに使ってちょうだい。……、まったく、あの男……、まだ懲りてないのね」
私はありがたく色鉛筆ケースを受け取った。
部屋には静けさが戻っていた。ようやく集中できる。そう思って、プロジェクトファイルを開いた。
(この件は、チーフに任せた。副社長に聞かれたら、答えればいい……)
でも、最後に聞こえたチーフの小さなひと言が、ずっと耳に残っていた。
『──あの男、まだ懲りてないのね』
まるで、過去にも何かがあったかのような言い方だった。
でも、なぜか私は……、その意味を深く尋ねてはいけないような気がした。
瀬川チーフの問いかけに、私はしばらく言葉を探していた。
これまでのように、雑用を押しつけられる程度なら、我慢もできた。けれど、今日は違った。極秘プロジェクトのファイルに手を伸ばそうとした倉本さん。それを止めたら、明らかに怒りの感情をぶつけてきた。
(正直に、話さなきゃ……)
私は、入社以来、何度も倉本さんから雑用を押しつけられていたこと、そして今日、引き出しにしまってあった色鉛筆がケースごと消えていたこと。また、極秘ファイルを奪おうとした件も含めて、ありのままを報告した。
チーフは驚く様子も見せず、静かにうなずいた。
「……、正直に話してくれて、ありがとう。副社長には私から報告するわ。それと──もしよかったら、これ使って」
そう言って差し出されたのは、チーフ自身の色鉛筆のケースだった。
「私はポップ担当だから、ほとんど色鉛筆は使わないのよね。だから遠慮せず、好きに使ってちょうだい。……、まったく、あの男……、まだ懲りてないのね」
私はありがたく色鉛筆ケースを受け取った。
部屋には静けさが戻っていた。ようやく集中できる。そう思って、プロジェクトファイルを開いた。
(この件は、チーフに任せた。副社長に聞かれたら、答えればいい……)
でも、最後に聞こえたチーフの小さなひと言が、ずっと耳に残っていた。
『──あの男、まだ懲りてないのね』
まるで、過去にも何かがあったかのような言い方だった。
でも、なぜか私は……、その意味を深く尋ねてはいけないような気がした。



