ある日、いつも使っている色鉛筆が、ケースごと消えていることに気がついた。
(……、あれ?)
昨日、確かに引き出しの上にしまったはずなのに、何度見直してもどこにも見当たらない。
「……、おやおや、どうしたんだい?」
声に振り向くと、倉本さんが、にやけた顔で立っていた。
「もう始業時間は過ぎてるよ? もしかして……、なくし物? はぁ〜、ダメだね。管理ができてないなんてさ。君、今日の作業、できるの?」
心の中で叫んだ。
(お願いだから、早くどこかへ行って)
だけど、もちろん届くはずもなく……。
確かに、今日はその色鉛筆を使って、米袋の配色を練る予定だった。彼の言う通り、作業ができない状況ではある。
「仕事、できそうにないなら……」
倉本さんは急に声を弾ませた。
「僕が代わりにやってあげるよ」
そう言いながら、私のデスクに手を伸ばし、極秘プロジェクトのファイルを持ち去ろうとする。
「──っ!」
慌てて、私はそのファイルを両手で押さえた。彼の手を振り払ったわけでも、言葉をぶつけたわけでもない。ただ、当たり前のように、それを守っただけ。
だけど、その行動が気に入らなかったのだろう。倉本さんの顔が、みるみる怒気に染まっていった。吊り上がった目、歯を食いしばる口元。顔がひくついている。
このプロジェクトは、一般社員にはまだ知らされていない。副社長からも『極秘プロジェクト』と言われていた。
知っているのは、上層部と、プロジェクトメンバー、そして瀬川チーフだけ。
(ど、どうしよう……。なんて言えば……)
言葉を探しているその時だった。ちょうど席を外していた瀬川チーフが戻ってきた。何も言わずとも、空気が一変しているのを感じたのだろう。
「何をしているの?」
その声は、いつもの穏やかな彼女のものとは思えないほど、強く鋭かった。
その一言で、倉本さんの顔色がさっと変わる。
「ぼ、僕は……! ただ、空月さんが困ってそうだったから、手伝おうとしただけだよ。
それなのに、彼女から横暴な態度を取られたんだ……!」
そう言い残して、逃げるように部屋を後にした。
(……、あれ?)
昨日、確かに引き出しの上にしまったはずなのに、何度見直してもどこにも見当たらない。
「……、おやおや、どうしたんだい?」
声に振り向くと、倉本さんが、にやけた顔で立っていた。
「もう始業時間は過ぎてるよ? もしかして……、なくし物? はぁ〜、ダメだね。管理ができてないなんてさ。君、今日の作業、できるの?」
心の中で叫んだ。
(お願いだから、早くどこかへ行って)
だけど、もちろん届くはずもなく……。
確かに、今日はその色鉛筆を使って、米袋の配色を練る予定だった。彼の言う通り、作業ができない状況ではある。
「仕事、できそうにないなら……」
倉本さんは急に声を弾ませた。
「僕が代わりにやってあげるよ」
そう言いながら、私のデスクに手を伸ばし、極秘プロジェクトのファイルを持ち去ろうとする。
「──っ!」
慌てて、私はそのファイルを両手で押さえた。彼の手を振り払ったわけでも、言葉をぶつけたわけでもない。ただ、当たり前のように、それを守っただけ。
だけど、その行動が気に入らなかったのだろう。倉本さんの顔が、みるみる怒気に染まっていった。吊り上がった目、歯を食いしばる口元。顔がひくついている。
このプロジェクトは、一般社員にはまだ知らされていない。副社長からも『極秘プロジェクト』と言われていた。
知っているのは、上層部と、プロジェクトメンバー、そして瀬川チーフだけ。
(ど、どうしよう……。なんて言えば……)
言葉を探しているその時だった。ちょうど席を外していた瀬川チーフが戻ってきた。何も言わずとも、空気が一変しているのを感じたのだろう。
「何をしているの?」
その声は、いつもの穏やかな彼女のものとは思えないほど、強く鋭かった。
その一言で、倉本さんの顔色がさっと変わる。
「ぼ、僕は……! ただ、空月さんが困ってそうだったから、手伝おうとしただけだよ。
それなのに、彼女から横暴な態度を取られたんだ……!」
そう言い残して、逃げるように部屋を後にした。



