護見合い―もりみあい―

 わたしの答えを聞いた里春さんは、一瞬目を丸くして、それから微笑んで。

 ふうっ、とため息を漏らした。



「良かった……僕だけが舞い上がっていたのかと思っていました。あやめさんは本当は、護見合いなんて嫌だったんじゃないだろうか、ってずっと不安で」

「最初は乗り気じゃなかったんです。両親にすすめられて、何となくでした。でも、里春さんと出会った今は……思い切って踏み出して良かったって本気で思ってます」

「あやめさん、その、僕は……いえ、作法がありますので……」

「いいじゃないですか、少しくらい。おっしゃってください」



 里春さんは、わたしの瞳を真っ直ぐに見つめた。



「まだ、言っていい段階ではないのですが。あやめさん、好きです。一目見たあの日から。いえ……香布を手に取った時から。僕の番になってください」



 わたしの心は決まっていた。



「どうぞ、よろしくお願いします……!」



 それから、里春さんにこんなことを聞かされた。

 護見合いでは、正式な婚約の書面を交わすまでは想いを告げるのはご法度。

 それでも、里春さんは居てもたってもいられなかったのだという。



「あやめさんは素敵な方ですから、他のアルファと出会われてしまう前に、と思って……つい……」



 護見合いの作法を守らずに、こんなに早く番になることを決めてしまったわたしたちは、きっと親世代には叱られる。

 でも、止められない。互いを想う気持ち。もっと知りたい、もっと一緒にいたいという気持ち。

 ただ、わたしには一つ心配なことがあった。



「あの、里春さん……わたしの大学進学については、賛成していただけますか? わたし、ピアサポーターとして働きたいんです」

「もちろん。全力で応援します。あやめさんの夢は、僕の夢でもあるんですから」



 それからは、会ってまだ二回目とはとても思えないくらい、会話が弾んだ。

 里春さんは、小さい頃は臆病な性格で、アルファだとわかってアルファ校に進学してから、剣道をはじめて自信をつけていったのだという。


「でも、根っこの部分はまだまだこわがりですよ。映画は好きですが、ホラーだけはどうしてもダメで」

「ふふっ、ホラー以外の映画、たくさん教えてくださいね?」



 もうお互いの気持ちは交わしたけれど、形だけでも作法にのっとらなければならない。

 わたしたちは惜しみながらカフェを後にした。

 それからは月に二度ほど日中に会う、ということを重ねた。

 そして、わたしの高校卒業が目前に迫り……。

 里春さんに婚約願の封筒を渡された。