里春さんの声は、低くて落ち着いていた。
「あやめさん、本日はお会いできてとても嬉しいです。香布交換の時から、この日が来るのを楽しみにしていました」
「……ありがとうございます」
本当は、聞きたいことが山ほどあった。
交番でどんなお仕事をしているのか。休みの日は何をしているのか。どんな学生時代を送ったのか。
けれど、オメガ側から質問するのはマナー違反だ。
わたしは里春さんのネクタイを見つめていた。
「あやめさんは、ピアサポーターを目指されているとか……理由などお伺いしても?」
「は……はい。わたし、自分がオメガだとわかってから、凄く不安で……」
くれぐれも話しすぎないように、わたしは少しずつ答えた。
オメガに生まれたことで、将来の選択肢が狭まったこと。
でも、オメガ校でピアサポーターの方とお話して、心が軽くなったこと。
「今度はわたしが誰かの支えになりたい、そう思ったんです」
里春さんは、ゆっくりと頷いた。
「素敵です。あやめさんは可憐でいて、強いお方でもあるんですね」
「そ、そんな……」
そんなことないです、と否定しようとして、やめた。謙遜しては失礼にあたる。
「ありがとう、ございます……」
そう返すので精一杯だった。
里春さんのお父さんが言った。
「里春、お前の趣味の話をしてはどうだ?」
「そうですね」
コホン、と咳払いした後、里春さんは続けた。
「僕は映画が趣味で。家で観るのではなく、映画館に行くのが好きですね。あやめさんはいかがですか?」
「その……わたし、映画館って子供の時にしか行ったことがなくて」
わたしの通うオメガ校は校則が厳しく、生徒だけで繁華街に行くことは禁止されていた。
だから、最後に映画館に行ったのは、オメガとわかる前に両親と。
「そうですか。もしよければ、ご一緒にいかがですか……?」
そう言う里春さんを、里春のお父さんが制した。
「里春、今日は顔合わせだ。軽々しくお誘いするな」
「申し訳ありません……」
しゅんと眉を下げてしまった里春さんのことが、何だか可愛く思えて。
里春さんはわたしより年上で、立派な職業に就いていて、力だって強そうなのに。
そんな人のことが、可愛い……?
初めての気持ちに、胸が高鳴って、落ち着かなくなってしまった。
「あやめさん、本日はお会いできてとても嬉しいです。香布交換の時から、この日が来るのを楽しみにしていました」
「……ありがとうございます」
本当は、聞きたいことが山ほどあった。
交番でどんなお仕事をしているのか。休みの日は何をしているのか。どんな学生時代を送ったのか。
けれど、オメガ側から質問するのはマナー違反だ。
わたしは里春さんのネクタイを見つめていた。
「あやめさんは、ピアサポーターを目指されているとか……理由などお伺いしても?」
「は……はい。わたし、自分がオメガだとわかってから、凄く不安で……」
くれぐれも話しすぎないように、わたしは少しずつ答えた。
オメガに生まれたことで、将来の選択肢が狭まったこと。
でも、オメガ校でピアサポーターの方とお話して、心が軽くなったこと。
「今度はわたしが誰かの支えになりたい、そう思ったんです」
里春さんは、ゆっくりと頷いた。
「素敵です。あやめさんは可憐でいて、強いお方でもあるんですね」
「そ、そんな……」
そんなことないです、と否定しようとして、やめた。謙遜しては失礼にあたる。
「ありがとう、ございます……」
そう返すので精一杯だった。
里春さんのお父さんが言った。
「里春、お前の趣味の話をしてはどうだ?」
「そうですね」
コホン、と咳払いした後、里春さんは続けた。
「僕は映画が趣味で。家で観るのではなく、映画館に行くのが好きですね。あやめさんはいかがですか?」
「その……わたし、映画館って子供の時にしか行ったことがなくて」
わたしの通うオメガ校は校則が厳しく、生徒だけで繁華街に行くことは禁止されていた。
だから、最後に映画館に行ったのは、オメガとわかる前に両親と。
「そうですか。もしよければ、ご一緒にいかがですか……?」
そう言う里春さんを、里春のお父さんが制した。
「里春、今日は顔合わせだ。軽々しくお誘いするな」
「申し訳ありません……」
しゅんと眉を下げてしまった里春さんのことが、何だか可愛く思えて。
里春さんはわたしより年上で、立派な職業に就いていて、力だって強そうなのに。
そんな人のことが、可愛い……?
初めての気持ちに、胸が高鳴って、落ち着かなくなってしまった。



